「東日本大震災後に起こっている、心霊体験のことを書いてみないか。」
ノンフィクション作家である奥野氏に打診したのは、2千人もの患者を看取った緩和医療のパイオニア・岡部健氏。
「臨終間際に起こる『お迎え現象』ならまだしも、幽霊話など・・・。」
始めは乗り気でなかった奥野氏も、霊現象は科科学的に解明されなくとも、それを体験したという話は「その人にとっては」事実であることに思い当たる。
これは、怪談ではない。死者と生者を繋ぐ、彼岸と此岸の逢瀬。
岡部氏は、体験者への聞き取りを始める。
それは、突然大切な人を喪った絶望から、「魂がそばにいる」ことを感じることで、再び生きる勇気を手に入れたという物語であった。
「夢に出てきた」という程度のものから、ドアを叩かれた、メールが来た、など体験は様々。
しかし大切なことはそれが科学的に証明できることなのか、思い過ごしなのか、偶然か、などということではなく、その体験が遺族を救うという事実なのである。
誰一人として、それらの不思議な体験に恐怖を感じていなかった。
喪った人との再会、その存在を感じること。
それが絶望の淵にいた遺族に、再び前を向いて歩き出す力を与えたのだ。
「大自然という大海の中に論理という網を投げて、引っ掛かってきたものが科学的成果で、大半の水は科学という網目からこぼれ落ちる」とは、物理学者中谷宇吉郎氏。
「幽霊」と「魂」の違いを考えさせられる一冊。
ぽ子のオススメ度 ★★★★☆
「魂でいいから、そばにいて」 奥野修司
新潮文庫