人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

心にナイフをしのばせて / 奥野修司

ミステリーではなく、ノンフィクションだ。

昭和44年に神奈川県の市立高校で起きた殺人事件を取り上げている。

またそんなんEE:AEB64すみません、ノンフィクションが好きでEE:AE5B1

この作品は、事件ではなく残された遺族にスポットを当てているのが特徴だ。

センセーショナルな事件ほど、その内容か人物像などに注目されるものだが、ここでは徹底的に遺族を追っている。

犯罪被害者やその遺族が加害者よりも守られていないという話は聞いたことがあるが、それがずっしりと伝わって来る重い内容であった。

話は被害者の祖父の代まで遡り、この家族の歴史をくまなく辿っていく。

事件はあくまでも、単なるきっかけだ。

高校生になったばかりの長男を、同級生に惨殺された加賀美家。

2年で少年院を出て、少年法によりこの過去はなかったものとされ、新しい人生を始めた加害者からは、とうとう謝罪はなかった。

示談金の支払いも720万円のうちたった40万円を分割で払ったきり。

母親は完全に廃人となり、1、2年の間は睡眠薬で寝込んだまま。

法事の際には現実を見れず、倒れてしまう。自殺未遂もあった。

妹は優等生であった兄を亡くし、その「代わり」を求められることに強く反発する。

反発しながらも、今にも壊れそうなこの家族を見限ることができず、加賀美家に縛られたまま生きていく。

自由になりたいという気持ちと家族を守らなくてはという相反する気持ちに挟まれ、反発し、自傷行為を繰りを返していた。

こんな二人を前に、全く弱いところを見せられなかった父親。

自分が崩れてしまえば、家族は壊れてしまうと思っていたのだろう。

誰も、長男の話をしなかった。

事件に触れることもなかった。

口に出してしまうと、このバランスが崩れてしまう。

こうして何十年も加賀美家は、事件を封印して辛うじて生きていたのである。

「あれからもう四十年近くになるんですねぇ。はるか昔のことなのに、私の中では、まるで昨日のことのようです。今でも一人になると涙が溢れてきます。当時の事はまったく覚えていないのに、悲しみだけはしっかりと残っています。」

母親の言葉である。

ぽ子のオススメ度 ★★★★☆

「心にナイフを忍ばせて / 奥野修司」

文春文庫