どーすっぺか、どーすっぺか。
昨日から私はずっと頭を悩ませていた。
ネットゲームで特別に配信されるクエストが始まるのが朝の6時、そのクエストに参加できればそこから2時間ゲーム漬けである。
10時半までに来い、と実家の母は言い、午前中のうちに晩御飯の支度を済ませて仕事に出勤したかった。
しかしいい加減に洗濯をしないともう着るもの的にも洗うもの的にも限界に達していたし、掃除をしないといつ来るともしれないリュウちゃんに怯えなくてはならなくなる。
昨日もゲームで夜更かしをしてしまったので、できれば寝たいのだが、ああ、時間、時間が欲しい。
結局朝のクエストに参加できる権利がなかったので、2時間浮いた。
もちろん寝る。
洗濯機を回して寝た。
入魂祭のいけにえに若い女性がふたり殺される夢を見た。
これは私が、ゲームの入魂祭にハマりすぎている事を示唆しているのだろうか。
洗濯物を干したら、野菜を切るしかできなかった。
車で5分の実家へ向かう。
今回も老人油絵会のモデルを頼まれたのだが、あいにく時間が取れなかったのだ。
ならば写真だけ撮らせてくれという事だったのだ。
人通りの少ない住宅街なので、いつも家の前に路駐してしまう。
実家は道路の右手側にあるので、右側に停める。邪魔くせーだろー、ゴメンナサイ。
なのでできるだけ右に寄せて停めるのだが、降りようと思うとドアが開かない。
少し力を入れて開けてみたが、ガシッといって5センチ程しか動かないのだ。
どうやら実家の木の枝がつっかえているようで、脱出不可能である。
左から出るしかない。
しかし、狭い。超狭い。
私は左から出ようと、まず左足を曲げたまま大きく上に上げてみたが、そこから左に持っていくのが難しい。
一度諦めて元に戻したが、やはり右のドアは開かない。
観念して左足をもう一度上げる。
ギアや前部のパネルに足が当たって、進めない。
EE:AEB61車の右の座席から左の座席に移る際、足がギアや前部のパネルに当たって身動きが取れなくなった方へ、朗報EE:AEB61
左足のパンツ(下着ではない、つまりおズボンだ)の膝の上あたりを持ち、足を引き上げます。
すると、簡単に足が上がるはずです。
こうして足が上がったのはいいが、左に動いた際に、アンテナに引っかかってしまった。
我が家の車ではMP3プレイヤーに入っている曲を聴くときに、FMラジオを通して聴いているのだが、それに必要なアンテナである。
アンテナと言っても細いコードで、これがなぜか、まるで私が引っかかるのを待っていたかのように、上にあるバックミラーから下にあるシガーライター部分に渡って垂れ下がっていたのだ。
しくった、かかってしまった!!
私はトラップにひっかかったウサギのように、泡食って足を前後に大きく揺さぶった。
左足はパンツで引っ張られたまま尻ごと宙に浮き、非常に不安定な状態である。
パンツを戻せよ、ぽ子。
しかし、得てして私のような人間は焦るとパニックに陥り、簡単な事も分からなくなってしまうものである。
そして、私のような人間はこのような時どうするかというと、強引に進むのである。
細いアンテナのコードはバックミラー、私の足首、シガーライター部分の3点でピンと張られた。
どこかがもげる、と思った時に、体を支えきれなかった右尻が大きく右に傾き、もとの姿勢に戻ってしまった。
本来ならこれは、アンテナやミラーに被害がないいい展開なのだが、私はイラッときてすぐに同じ事を繰り返した。
ウサギほど脳味噌の小さいぽ子は、もう一度トラップに引っかかる。
EE:AEB61車の右の座席から左の座席に移る際に左手でパンツを持ち上げて移動したらアンテナに引っかかって身動きができなくなった方へ、朗報EE:AEB61
その格好のまま今度は空いている右手で左足の先を持ち、アンテナから外します。
すると、左足が自由になるはずです。
車とは窓だらけの乗り物だが、誰かこの格好を目にした人はいるだろうか。
なぜかあの時私は恥ずかしいとは思わずに、泥棒に見えるんじゃないかと焦っていた。
見えねーって。恥ずかしいって。
ところが急に足がアンテナから外れたので、右の座席に尻を乗せたまま、急に体が左に大きく傾いた。
なんかヤバい気がしたので、とっさに尻も左に動かしたら、左右の座席の間にある収納スペースに乗っかってしまった。
いやに高い位置で、頭がつっかえた。
ちょうど左足は左の座席に移り、右足は右の座席に残った状態であり、お侍さんの大将のような格好である。
しかし、ここまで来ればあとは簡単である。
尻を左座席にずらし、残った右足を手で引っ張り寄せる。
フー。
何がいけなかったんだ?
アンテナか?
路駐か?
木の枝か?
体のどの筋も無事で良かった。
実家では弾けもしないチェロを持たされ、誰も弾いたことがないので適当なポーズで写真を数枚撮った。
弓がないのでバイオリンの弓を持ってきたが、これも年季が入って老女の妖怪の頭のようにバッサバサであった。
これにバイト料を払おうとしたので、逃げるように断って帰ってきた。
車に乗る際は、さっきの逆である。
さすがに2度目、さっきよりはすんなり乗れた。
ウサギ脳だが、それぐらいの学習能力はあるらしい。
家に着いて、車を停める。
たいがい斜めになるが、今回はちょい斜ぐらいの出来で満足してドアを開けた。
すると、バサッと上から紙吹雪のように葉っぱがドッサリ落ちてきた。
実家の木の葉っぱを、しこたま挟み込んだまま発車したらしい。
いけなかったのは木か路駐か、それともウサギ脳の私だろうか。