人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

青い別れ

梨をもらいに実家に行くことになった。

実家と言ってもすぐそこである。

仕事に行く前の午前中に行くよ、と言ってあったが、午前中は全く時間が作れないことがわかった。

二度寝が原因である。

ゲームですら諦めたのだ、今日は。

しかし、本当に本当に眠いのだ。

昨日もなかなか寝付けず、こりゃいよいよ本格的に何とかしないと的なシチュエーションになってきたの巻である。

なので、仕事が終わってから行く事になったのだが、すぐそこと言っても自転車で片道10分ぐらいか。

往復で20分である。おっ、暗算でできたぞ。

こんなにグータラな人間が言っても信じられないかもしれないが、ぽ子はボーッと時間を無駄に過ごす事が苦手である。

こう見えても多忙なのだ。

寝たり飲んだり遊んだりで、ボーッとなどはしていない。

郵便局に行くのが面倒だからと言って、家でイスに座って遠くを見ているわけではない。

外のポリバケツの掃除をしないのは、寝ているからである。

ちゃんと理由があり、何かを自分の意思でやっている。

ところがだ。

「移動」という行動は非常に中途半端である。

「移動している」と言えばそうだが、その間が暇なのだ。

なので電車やバスでは本かDS、バス停でも本を読んだりブログの更新をしたりしているのだが、自転車は始末が悪い。

まず手が塞がってしまうし、運転しなくてはならないから周りに注意しなくてはならない。

勝手に到着してはくれないのだ。

そうなると無駄な20分が惜しい。

20分もあれば、ゲームが先に進め・・・、ハッ、またゲーム時間に換算してしまった。

まぁとにかくそんなんで、正直、気が重かった。

何とかこの20分を活かせないかと考えて、思いついたのが「音楽」であった。

使うのは耳とハート(♪)だけである。

私は早速、音源を探した。

私が自信を持って使えるのは、MDウォークマンまでである。

いわゆるMP3プレイヤーというものは、正直ぽ子には難しい。

やってやれない事はないのだろうが・・・と言う程度である。

しかしMDウォークマンなど、今となってはどこにあるのかすらわからない。

電池を出し入れする部分がバカになっていて、輪ゴムで留めていた。

ちょっとの振動ですぐ止まる、もう老いぼれである。

老いぼれ、と書いて悲しくなった。

アイツと仲良くやっていた頃が懐かしい。

今の機械はもう、何だか訳わからなくて、ぽ子はひとりぼっちである。

とりあえず電話の横に、ぶー子が使ったまま放り出してあったダンナのヤツがあったから、それを手に出発した。

まぁ一応これなら使ったことはある。

自信がないだけなのだ。

まず、スイッチが入らなかった。

HOLD、問題ない。

ダンナがいつも「ホールドした方がいい」と言っていた、いわゆるロック機能である。

ロックと言ってもズズダダの方ではなく、シカトぶっこき機能である。

つまり、これが入っていると、どのボタンも反応しないのだ。

間違えて押されても反応しないように、という事らしい。

ホースドを解除すると、くるりの「赤い電車」が流れてきた。

・・・ぶー子である。

気に入ったと言っていたが、本当にこればかり聴いていたのか。

私は、録るだけ録って、まだ聴いていなかった山崎まさよしをチョイスした。

秋の夕暮れである。

彼の哀愁を帯びた歌声と、美しいギターの旋律が胸に染み入る。

こんな時間も悪くないな、そう思いながら気持ち良く自転車をこいでいたのだが、2曲目も同じ曲であった。

ん?どした??

私は本体をポケットから出して、曲を飛ばした。

飛ばそうとしたが、飛ばなかった。

・・・HOLDである。

ダンナが「HOLDするように」と最初に言ってきかせたので、私もそれを律儀に守っていた。

「夜中に口笛を吹くと、不吉な事がおこる」という迷信のように、HOLDをしないと何だか恐ろしい事が起こりそうな気がしてしまうのだ。

ホールドを解除、曲、飛ばし。

2曲目もどこか切なく、いい曲であった。

しかしこれも繰り返される。

ああ??何なんだ??もしかして、ぶー子はリピートにしていたのだろうか。

「すっごく気に入って、ずっと聴いてたんだ。」

ずっと。ぶー子はそう言った。

ずっとか(泣)

私は自転車を停め、本体をポケットから出し、曲を飛ばす。

HOLD。

ファック、何て律儀な私。

暗い道に黒い本体の裏側の小さなホールドボタン。

ついでに余計なボタンも押してしまったりして、忌々しい。

リピート機能を解除しない事には、1曲ごとにこの操作である。

かと言って、そんな高度なテクニックなど、私は持ち合わせていない。

ぶー子は持ち合わせていたと言うのか?

クソッ、それなら私にできないはずはない。

梨をもらい、帰り道でも何度もつまらぬ繰り返しをし、やっと私はリピートを解除する気になった。

しかし、やってみれば意外と呆気なかった。

そうなのだ、ぶー子ですらできたのだ。

私にできないはずはないのだ!!

しかし、リピートが解除されるまでは、曲が終わるごとに曲を飛ばし、飛ばないのでホールドを思い出し、手間取っていた。

私は前を歩いていた体操着の少年を追い越したが、この操作と信号待ちで、長い事デッドヒートを繰り広げる結果になった。

まぁ操作がわかってしまえば他愛もない。

小さいし、あの老いぼれよりも全然使い勝手がいいじゃないか。

ハッ、老いぼれ

言葉にしてまた切なくなってしまった。

さようなら、MDウォークマン。

青くてきれいなやつだったよ。

さようなら(泣)