梨をもらいに実家に行くことになった。
実家と言ってもすぐそこである。
仕事に行く前の午前中に行くよ、と言ってあったが、午前中は全く時間が作れないことがわかった。
二度寝が原因である。
ゲームですら諦めたのだ、今日は。
しかし、本当に本当に眠いのだ。
昨日もなかなか寝付けず、こりゃいよいよ本格的に何とかしないと的なシチュエーションになってきたの巻である。
なので、仕事が終わってから行く事になったのだが、すぐそこと言っても自転車で片道10分ぐらいか。
往復で20分である。おっ、暗算でできたぞ。
こんなにグータラな人間が言っても信じられないかもしれないが、ぽ子はボーッと時間を無駄に過ごす事が苦手である。
こう見えても多忙なのだ。
寝たり飲んだり遊んだりで、ボーッとなどはしていない。
郵便局に行くのが面倒だからと言って、家でイスに座って遠くを見ているわけではない。
外のポリバケツの掃除をしないのは、寝ているからである。
ちゃんと理由があり、何かを自分の意思でやっている。
ところがだ。
「移動」という行動は非常に中途半端である。
「移動している」と言えばそうだが、その間が暇なのだ。
なので電車やバスでは本かDS、バス停でも本を読んだりブログの更新をしたりしているのだが、自転車は始末が悪い。
まず手が塞がってしまうし、運転しなくてはならないから周りに注意しなくてはならない。
勝手に到着してはくれないのだ。
そうなると無駄な20分が惜しい。
20分もあれば、ゲームが先に進め・・・、ハッ、またゲーム時間に換算してしまった。
まぁとにかくそんなんで、正直、気が重かった。
何とかこの20分を活かせないかと考えて、思いついたのが「音楽」であった。
使うのは耳とハート(♪)だけである。
私は早速、音源を探した。
私が自信を持って使えるのは、MDウォークマンまでである。
いわゆるMP3プレイヤーというものは、正直ぽ子には難しい。
やってやれない事はないのだろうが・・・と言う程度である。
しかしMDウォークマンなど、今となってはどこにあるのかすらわからない。
電池を出し入れする部分がバカになっていて、輪ゴムで留めていた。
ちょっとの振動ですぐ止まる、もう老いぼれである。
老いぼれ、と書いて悲しくなった。
アイツと仲良くやっていた頃が懐かしい。
今の機械はもう、何だか訳わからなくて、ぽ子はひとりぼっちである。
とりあえず電話の横に、ぶー子が使ったまま放り出してあったダンナのヤツがあったから、それを手に出発した。
まぁ一応これなら使ったことはある。
自信がないだけなのだ。
まず、スイッチが入らなかった。
HOLD、問題ない。
ダンナがいつも「ホールドした方がいい」と言っていた、いわゆるロック機能である。
ロックと言ってもズズダダの方ではなく、シカトぶっこき機能である。
つまり、これが入っていると、どのボタンも反応しないのだ。
間違えて押されても反応しないように、という事らしい。
ホースドを解除すると、くるりの「赤い電車」が流れてきた。
・・・ぶー子である。
気に入ったと言っていたが、本当にこればかり聴いていたのか。
私は、録るだけ録って、まだ聴いていなかった山崎まさよしをチョイスした。
秋の夕暮れである。
彼の哀愁を帯びた歌声と、美しいギターの旋律が胸に染み入る。
こんな時間も悪くないな、そう思いながら気持ち良く自転車をこいでいたのだが、2曲目も同じ曲であった。
ん?どした??
私は本体をポケットから出して、曲を飛ばした。
飛ばそうとしたが、飛ばなかった。
・・・HOLDである。
ダンナが「HOLDするように」と最初に言ってきかせたので、私もそれを律儀に守っていた。
「夜中に口笛を吹くと、不吉な事がおこる」という迷信のように、HOLDをしないと何だか恐ろしい事が起こりそうな気がしてしまうのだ。
ホールドを解除、曲、飛ばし。
2曲目もどこか切なく、いい曲であった。
しかしこれも繰り返される。
ああ??何なんだ??もしかして、ぶー子はリピートにしていたのだろうか。
「すっごく気に入って、ずっと聴いてたんだ。」
ずっと。ぶー子はそう言った。
ずっとか(泣)
私は自転車を停め、本体をポケットから出し、曲を飛ばす。
HOLD。
ファック、何て律儀な私。
暗い道に黒い本体の裏側の小さなホールドボタン。
ついでに余計なボタンも押してしまったりして、忌々しい。
リピート機能を解除しない事には、1曲ごとにこの操作である。
かと言って、そんな高度なテクニックなど、私は持ち合わせていない。
ぶー子は持ち合わせていたと言うのか?
クソッ、それなら私にできないはずはない。
梨をもらい、帰り道でも何度もつまらぬ繰り返しをし、やっと私はリピートを解除する気になった。
しかし、やってみれば意外と呆気なかった。
そうなのだ、ぶー子ですらできたのだ。
私にできないはずはないのだ!!
しかし、リピートが解除されるまでは、曲が終わるごとに曲を飛ばし、飛ばないのでホールドを思い出し、手間取っていた。
私は前を歩いていた体操着の少年を追い越したが、この操作と信号待ちで、長い事デッドヒートを繰り広げる結果になった。
まぁ操作がわかってしまえば他愛もない。
小さいし、あの老いぼれよりも全然使い勝手がいいじゃないか。
ハッ、老いぼれ。
言葉にしてまた切なくなってしまった。
さようなら、MDウォークマン。
青くてきれいなやつだったよ。
さようなら(泣)