鼻が詰まってあんまり寝れなかった・・・。
そう言えば、時間があったら来て欲しいとか娘ぶー子が言ってたな。
なんだろう??
ぶー子の部屋に行くとお待ちかねだった。
「一度やってみたかったんだよね~。」と言いながらバッグから化粧ポーチを取り出した。バッグったってスクールバッグだ。
何でそんなところから出てくるのだ、そして何でそんな物を出すのだ。
「今度ギャルメイクさせて♪」と言ってたそれか。別にそれは構わないが・・・鼻が耐えられるかどうか。
しかしぶー子はサッサと下地を塗り始めた。む?
私のなんかより、よっぽど良さそうなリキッドファンデだぞ。この滑らかな伸び、恥ずかしながら経験したことがない。
しかも贅沢に塗りたくっている。私など、もったいないから人差し指の先にチョンとつけてそれをできるだけ伸ばしている。当然、ファンデの乗りも悪い。
下地なんてまじないみたいなもんだ。
その上にファンデをこすりつけ、アイラインを引き始める。
目の前にぶー子の超どアップだ。
近い。近すぎる。
ぶー子は夢中になっている。
彼氏かなんかだと、ここでチュッとかするんだろうな、と思い、おもしろいからやってやろうかと思ったらおかしくなってきて、目じりがニニッと上がってしまった。
「ああ、もうシ、・・・シワが・・・。」
シワだと!?
「絶対笑わないで!!笑ったら・・・殺す。」そう言ってぶー子は続きを始めた。
ぶー子。ぶー子ちゃん。お顔が近いですね。
私は変顔をしてみた。全然気付かない。
虚しい・・・。そう思ったらまたおかしくなってきた。笑ったら殺される。
必死で笑いを堪えていたら、ぶー子の方が笑い出した。
「涙が・・・一杯たまってますよ・・・フフフ・・・。」そう言われたと思ったら、ツーと涙が流れてきた。
それをきっかけにしてあとはダラダラ流れっぱなしだ。
「あ~、もうグチャグチャに広がっちゃったよー。しょうがないなぁ、じゃあマンバだ、もう。」
マンバ=ヤマンバつまり渋谷あたりにいそうなアレだ。
マンバかよ・・・。まぁぶー子の化粧など始めから期待してなかったから、何だっていい。
笑えりゃまだめっけもんかもしれない。
ぶー子はまた真面目な顔で続きを始めた。
フー。
しかし鼻がそろそろ限界・・・と思ったら急にムズムズしてきた。
や、ヤバイ、今くしゃみなんかしたら大変なことになるぞ。
鼻には両鼻ティッシュが詰めてあるし、ぶー子はもう口づけできそうな距離なのだ。
想像する。
私は「くしゃみが出そう。」と言おうと思ったが間に合わない。
寸前まで我慢した爆弾のようなくしゃみが、目の前にいるぶー子に向かって発射される。
そして、同時に鼻からティッシュ砲も発射されるのだ。
数分水っぱなの栓の役割をしていたのだ。糸を引くかもしれない。飛行機雲のように優雅に弧を描くだろう。
ダメだ、絶対に避けなくては。
「ぶー子、出るよ、出る出る・・・。」私は鼻栓を抜いた。
「はぁ?!」と言ってぶー子は1歩引いた。
しかし不発であった。鼻全体がジーンとしている。
大惨事は免れたが、ツツツーと両方の鼻の穴からダラダラ鼻が垂れてきた。
「アハハ、見てよこれ。」
「いいから拭けよ!!」
このあたりでピンポーンと呼び鈴が鳴った。
夜の9時を過ぎている。一体誰だ?
宅急便であった。
ぶー子は牛柄のパジャマだ。私は泣き濡れたヤマンバだ。
2人で出たくない、アンタが出ろ、と譲り合ったがどう考えてもこの場合はぶー子だろう。
通販で頼んだラーメンが来た。
待ち焦がれていた品物だ。これから1年、毎月届く。ネタにするのでヨロシク。
ここでぶー子はもう投げてしまった。
鏡を見たらパンダがいた。
「花粉症、終わってからにしよう。」
ぶー子はそう言った。