「なかなか話す機会がなかったんだけど・・・。」
ビールを飲み、ワインに入り、軽く酔って気持ちのいいところであった。ダンナが改まって切り出したので、私はちょっとドキッとする。
「前にも話したことあると思うけど、会社にバンドやってる奴がいて。」うん。覚えてる。
「一曲一緒にやらないか、って言われてさ。」
バンド単位のライブではなく、セッションで1曲エントリーということらしい。他のメンバーも、やはり社内の人だと言う。
「え!じゃあ練習しなきゃじゃん!」
私は嬉しかった。
もうバンド活動をしなくなって、何年経つだろう。
私は細々とひとりでピアノを弾いているが、ダンナはもう全くギターを弾いていない。
遺影はギターと写ってるものにしてくれ、とまで言っていたのに、そんな遺影は今となっては嘘である。
あんなに弾いていたのにもったいない、という気持ちと、休日になってもスマホをいじるばかりでやはりもったいない、という気持ちと。
時々こちらから「弾いて」と頼むと、それはそれはそれで「やっぱり楽しいなw」などと言うので、好きな気持ちは変わっていないんだと思う。
最初のハードルだ。手にするだけなのに、何となく億劫、今ではない、いつでも弾ける、そんな感じで遠ざけ、ますますハードルが上がってしまったのだろう。
ライブなら、練習しなくちゃである。ハードルをどかさなくちゃなのである。
私は壁にかかっているギターを、ダンナに手渡した。
曲は、80年代の伝説的ロックバンドのシングルだった。
曲を流しながら、コード譜を追う。YouTubeでギターパートの解説を聞く。私も昔、ベースを練習した曲だ。一緒に弾く。
「やっぱギター、楽しいなぁ!」
それよ、それ!その感じを忘れて欲しくない。
「言う通りに書いて。」私は筆ペンと白い紙を渡した。
「俺はこれから毎日、ギターを3分弾きます。少なくとも1分は弾きます。令和8年5月24日。」
手にしてしまえば、まさか3分では終わらないだろう。手にしてくれさえすればいいのだ。そして、日々の積み重ねは貯金となり、みすみす無くしたくはなくなるだろう。あわよくば、増やしたいという気持ちになれるかもしれない。
とりあえず、昨日は弾いたみたいだ。
ライブは7月。
頑張れ。それ以降も(笑)