人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

秋の夕暮れに

「今この状態で、犬の散歩できる?」

「無理。」

何度二日酔いでこの会話を繰り返した事か。

散歩している犬を見ては可愛い羨ましいと言い、しかしその「毎日散歩」のハードルが高く、飼うことは叶わないでいた。

ところが犬の方からやってきて、早一年半。

娘らの協力もあり、一日も欠かさずに散歩することができている。

主に朝はダンナ、夕方は私、休日の夕方は娘たち、というサイクルだ。

去年は夏の夕焼けを良く見た気がするが、今年はほとんど見ることがなかった。いつの間に散歩の時間帯が変わっていたようだ。

そして今年は、雷雨が少なかった(笑)おかげでミッツが暴れることもなく(厳密には一度)、家の破壊も免れたのであった(厳密には収納箱をひとつ壊された)。

 

陽が落ちるのが急に早くなったこの頃である。夕日はどこへ、散歩に出るともう暗くなっている。

別にミッツはお構いなしだ。彼女が構うのは雷と雨ぐらいである。

グイグイ引く癖はかなり落ち着いてきたが、それでも犬や人には反応する。

吠えられるのも面倒でできるだけ避けるようにしていても、どうしてもすれ違わなくてはならない時はある。

その時前から歩いて来たのは作業服を着た男性で、ミッツはすぐに反応してそちらに行こうとした。

グイッとリードを引いて「こら」と声を掛けると、ミッツは「ワン!」とひと吠えだけして方向転換した。「ワン」さえなければ、満点だ。成長したものである。

すると「こんにちは!」と男性はミッツに返事をしたのだ。

 

このように、犬に声を掛けてくれる人は、時々いる。年配の方が多く、犬が好きなのだろう、目を細めて「可愛いですね」などと言ってくれるので、満更でもない。

この男性は私と同世代か、柔道の篠原信一選手にどこか似ている。

「こんにちは。」私がミッツの代弁をする。

そのまま歩き出すとその背中の方から、「ポメラニアンのミックスですかね。」という声が追って来た。

思わず私は大きく振り向く。

 

ポメラニアン。

ミッツを譲り受ける時に、この子はポメラニアンだと聞いていた。

しかし実際に会ってみるとミッツは中型犬ほど大きくガッチリしていて、そのような可憐な犬種ではなかったのだ。

しかしじゃあ何かと考えても、分からない。きっと何かと何かのミックスだ。

気になるので色んな画像を調べてみたが、スピッツと柴犬を足したらこんな風になるんじゃないかというのが今の私の読みである。

ところが、グーグルカメラなどでミッツの方を画像検索にかけると、圧倒的にポメラニアンなのである。

なるほど、ポメラニアンは一応スピッツの系統であるらしく、あながち外れてはいないようである。

しかし普通はミッツを見て、「ポメラニアン」とは言わない(笑)なにしろ、でかいのだ。

 

「ポメラニアン、と言われて譲り受けたんですが(笑)」と返すと、「これはポメのミックスですよ。僕も昔飼ってました。珍しいですよね。」

そうとだけ言って男性はミッツに笑いかけると、頭を下げて行ってしまった。

どれだけグーグルに「ポメラニアン」と言われてもそんな気はしなかったのに、なぜかこの言葉は間違いのない教えのように思われた。

「昔飼ってました」という言葉に、彼がどんな思いでミッツを見たかを感じる。今はもういないその子の面影が、そこにあったのだろう。きっと間違いはない。その子とミッツとの共通点、「ポメラニアンのミックス」であることに。

 

なんだかミッツの素性が分かったようで、嬉しいできごとであった。

柴犬風にカットした毛も、またフサフサになってきた秋の夕暮れのできごとだ。