中型犬の散歩は1日2回が理想だという。そんなにできるか不安だったが、案外すぐに定着した。
朝はダンナ、夕方が私。
どちらの時間帯も、季節によって明るい時期と暗い時期がある。今は暗い時期だ。ミッツの首に小さなライトをぶら下げて、歩いている。
明るい時間帯に出ることもできるが、とにかく他の犬に出会いたくないのである。ミッツが吠えまくるから。
明るい、暖かい、などと条件が良い程に、犬の出現率は上がるのだ。
私は暗くなってから、ひっそりと家を出るようにしている。
その日も、家を出た時にはすでにもう真っ暗だった。心なしかこの季節は、静かに感じるものだ。澄んだ空気の中、ミッツに引かれるように歩いて行く。
人もまばらだ。
私は道路際の細い歩道を、ミッツと歩いていた。
少し前を、若い女性が歩いている。はたち前後か。
膝ぐらいまであるロングコートに、たっぷりとしたパンツスタイル。ヘアスタイルはボブか。全体的にボーイッシュな感じ。どこか80年代を思わせるスタイルに、懐かしさを感じていた。
と、その時、ミッツがくしゃみをした。
へぶしゅ!!
・・・という実にオッサン臭いくしゃみであった。
すかさず前方の女性が、
「うわあッッ!!」
と言って、飛び上がった。まるでくしゃみに反応するおもちゃか何かのようだ。
彼女は「び、びっくりした!!」と言いながらこちらを振り向き、とっさに私は「す、すみません。」と謝る。
彼女はくしゃみの主が犬と知り、私はまた彼女の派手なリアクションに、大爆笑だ。
彼女は「犬、後ろ、びっくり」などと言いつつ、私は「すみません」を連呼しつつ、おかしくてたまらない。
ふたりしてゲラゲラ笑いながら、じゃあ、と別れた。
今でも散歩をすると時々このことを思い出し、ひとりで笑っている。
相変らずミッツのくしゃみはオッサン臭い。
また誰かの背後でかましてくれないか。秘かにその時を待っている。