「じゃあもう寝るから。」
そう言ってダンナは、リビングの奥の和室に消えようとしていた。
しかし私の返事をしかと待つように、部屋の境目に立ち、こっちを見ている。
片手にはエルのご飯皿、エルはサッとダンナの足元を通り抜けて、和室に入っていったところだ。
本気だ・・・。
今夜は本気である。私は悟ったが、その作戦では無理だ。
「ちょっと待って。いい考えがあるから。」
連勝している私も、いい加減、彼が哀れに思えてきたのであった。
先日書いたが、このところエルは私の寝室で一緒に寝ている。
それまではダンナと先に眠り、夜更かししていた私が寝る頃に起き出して来て私と眠り、朝になって先に起きる私と一緒に起き、まだ寝ているダンナの布団に入る・・・、という涙ぐましい親孝行をしていた。
それがなぜかある日を境に、パッタリ「ぽ子オンリーユーEE:AE595」になってしまったのだ。
あの日の夜は、ひどく冷え込んだのだ。
いつもは布団の上で寝ていたが、あの日から中に入ってくるようになった。
それで「こっちの布団、超あったけー」と覚醒したか、実はあの晩私はグデングデンに酔って一人でオイオイ声を上げて泣いたので、ビビッて何かの回路がおかしくなってしまったのかもしれない。
とにかくそれから、ぱったりダンナと寝なくなってしまったのだ。
エルはいつもどこかに冒険をしたくてウズウズしているので、開く扉があればとりあえず飛び出して行く習性がある。
その習性を利用して先に部屋を移動してエルをいざなっていたダンナも、すぐにまたリビングに戻ってしまうのでお手上げ状態であった。
私はエルと一緒に寝れるようになったので有難くその状態に浸かっていたが、昨夜のあのダンナの硬い表情、一歩も譲らないという気迫、クマの模様のパジャマを着てエルのエサを片手に仁王立ち、負け戦に挑もうとしているのだ。
負けた、あなたの不戦勝にしてあげましょう。
で、それではダメなのだ。これまでだって、エルはすぐにリビングに戻ってきてしまっていた。
じゃあ私が先に寝るか?
しかしエルは先に開く扉の方に行くのだ。
おお、なんだかクイズみたいになってきたぞ。
じゃあどうするかというと、
「ほぼ同時」
で、いく。
同時ではいけない。現状では私が上だ。私が勝つ。フッ。
なので、ダンナが先にエルと和室に向かい、エルがUターンする前に、私はサッとリビングを出てしまえばいいのだ。
「だから、もう1回ここに全員戻って、寝るところからやりなおし。」
ダンナは半信半疑という表情であったが、彼の作戦はもう古いのだ。
ダメもとでも私に従うべきなのである。
「じゃあおやすみ~。」
アホ臭いが、さっきと同じように、和室への戸を開き、先に消えるダンナ。
エルが夜中に出入りできるように、こぶし一つ分の隙間を開けていく。
ひと呼吸置いて2階へのドアを開けようとノブに手をかけたら、途端にエルが弾丸のようにすっ飛んで戻ってきた。
このスピード。
あかん、エルは本気でこっちに行きたいのである。
私はエルをつかみ上げて、「早く早く!!私は行くから連れてって!!」と声を張り上げた。
エルは「いやぁ!!」というようにギャ~ンと鳴いた。
それを見たダンナは「もういいよ、もうエルの行きたいほうに・・・。」と泣きそうな情けない声で言ったが、「ハイハイっ」とエルを押し付けて、サッサと2階に上がってしまった。
ダンナの事が嫌になった訳じゃないのだ。
そこしかなければそこで大人しく寝るだろう。
GOOD LUCK。
朝になった。
先に起きてリビングで朝ご飯を作っていたが、振り向くとダンナが和室との境い目に立っていた。
「一緒に寝たよEE:AEAC5」
初夜を迎えた新郎のように、満足そうな照れくさそうな笑顔である。
クマ模様のパジャマを着て、空になったエルのご飯皿を持って、しっかりと立っていた。
おお、良かったね。
まだしばらく寒いだろうから、仲良く寝るが良い。