いけない事だと分かってはいた。
その危険性も。
だからと言って我慢できるかと言えば、そうでもないのが人間の性であろう。
誘惑に負けたと言ってしまえばそれまでだが、これは「愛」の罠である。
「愛」の前に為す術もないのが、生ける者の定めである。
だから私は危険を省みず、踏み込んでいはいけないその区域に入ってしまったのだ。
実はこれは、初めてのことではない。
もっとはっきり言うと、常習犯である。
何度も繰り返し、痛い目に合いながら、私なりの防御法をある程度確立させたのである。
だから私は、自信を持ってその罪を犯す。
しかし神は、愚かな人間に時々警告を出すのだ。
「『愛』ある人間よ、そなたは『理性』も持ってはいなかったか。」
私は「理性」は持っていたが、その時は「耳」を持たなかった。
その結果である。
エルは抱っこが嫌いである。
中でもお腹を上にして抱かれることが嫌いで、無理強いするとガウッ、フーッなどと言って抵抗する。
虫の居所が悪いと本気で顔をひっかかれたりするのだ。
今、私の顔は、唇からあごにかけて斜めに赤いラインが入っている。
勇気の証である。
愚か者の証か。