人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

始動

上司グッティ氏が、ネトゲから足を洗った。

A型らしく誰よりも着実に、誰よりも目覚しい成長を遂げていたのである。驚いた。

「20代最後の歳ですから。」

音楽活動を本格的に再開する、そう言って彼はネトゲワールドを去ったのである。

そしてその話のついでに、こう付け足した。

「ぽ子さんも弾いたほうがいいですよ、キーボード。」

いやぁ時間が、いやぁもう寒くて、などと濁したら、「快楽主義者は言い訳が得意なんですよ。」と言って笑った。

ハイ。

確かに時間はないが、作れる程度の時間である。

寒くて鍵盤が冷たいのも事実だが、部屋を暖めればいいだけである。

そもそも、これまでやっていた事なのだ。できない訳はない。

もう長い事ピアノの練習をサボッていたが、強いて原因を挙げればネトゲである。

直接的な原因ではないが、ネトゲに傾倒するあまりに夜更かし・深酒が進み、翌日を潰していたのである。

年が明けてから、私は心を入れ替えた。

毎年入れ替えているつもりだが、今年はいつもより入れ替えた。

それにより若干の早寝と若干の節酒が、若干実行されている。

結果、若干朝に余裕ができたのである。

しかしまだ心を入れ替えた1年生である。

朝起きてからも布団が恋しくて、しばらくウジウジしている。

二度寝しないように工夫はしているが、ウロウロしているだけで「寝ていない」、それだけなのだ。

この時間をピアノの練習に充てればいいのではないか。

と言うか、そもそもそうしていたのだ。

ところで昨夜は、本当に寒かった。

寒くて寒くて、あんまり眠れなかったのだ。

そんな気持ちで起きたので、今日はあまりやる気がなかった。

相変わらず老人のようにリビングとダイニングをオロオロしていたが、ついに音楽室に暖房を入れるという仕事をした。

これで「鍵盤が冷たい」という言い逃れができなくなる。

音楽室が暖まるのを待ったが、音楽室どころかリビングもダイニングも寒い。

寒いので行動もエコ設定になり、極力動きが少なくなる。

動きが少なくなれば眠くなる。

私はソファの上で、丸くなって目を閉じた。

その上にエルが乗って目を閉じる。完成。グー。

気がついたら太陽はずいぶん昇っていた。

そうだ、洗濯物を干さねば。

洗濯物のカゴを持って2階に上がる。

ベランダに出るために、音楽室を開ける。

ムッ。

あ、暑い。

日当たりがいい上に暖房つけっぱなし、これはこれで、ピアノなんか弾ける部屋じゃないぞ。

窓を開け放して洗濯物を干すと、上着を脱ぎ、ピアノの前に観念して座る。

楽譜はまだそのまま、置きっぱなしである。

楽譜の横には、小さなメモ帳が立ててあった。

それを開くと、今まで課題曲とした曲のタイトルと、最後に練習していたテンペストの第2楽章だけ、練習を始めた日にちが書いてあった。

そしてその日付は、

21年4月21日であった・・・。

1曲にどんだけ時間かかってるんじゃいってEE:AEB64

しかし時間がかかっただけあって、弾いてみれば思ったよりも指は覚えていた。

お~、これなら再開する気にもなれるってものだ。

今日弾いたのは1回だけ。

引っかかりながらチンタラ弾いたので、どえらい時間がかかってしまったのだ。

しかしこれは、山頂への大きな1歩になるはずである。

待ってろや、ベートーベンッ。