人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

9500円の勝負

入学式と送別会を目前にして、やっと重い腰を上げた。

美容院である。

嫌いではないが金が掛かることと、私の貴重な頭髪を短時間に大量に奪われる事がネックになって、なかなか行く気にならないのだ。

前回行ったのは12月だ。白髪も限界に達している。

あぁ嫌だね歳をとるって。

若い頃は前髪だけ切って半年でも1年でも伸ばしていたものだ。

しかし行く事自体は楽しみである。

担当の松本さんはとても腕がいいので、いつも希望以上に素敵な髪型にしてくれるのだ。

ここ3回ほどはずっと前下がりのボブをリクエストしてきた。

かなり気に入っていたのだが、いい加減に飽きてきたのでそろそろイメチェンを図ろうと決意したのだが、そこには思いもよらない障害が待ち構えていた。

私は必ずヘアカタログのような写真を持っていくようにしている。

手にしたそれは、必ず若い美人がもっと都会のカリスマ美容師が手掛けたような頭で微笑んでいて「身の程しらずめ」と思われていそうで怖いが、思いが伝わらずに変な頭にされるのはもっと怖い。

何たって金が掛かっているのだ。

服も靴も上限1500円・しまむら御用達、生鮮物なら半額がモットーの私が払うには、恐ろしく高額な美容院の料金なのである。

私は午前に耳鼻科に行って戻ると、パソコンで「ヘアカタログ」を検索して、気に入る髪形が見つかるまで延々ページをめくった。

家にも何冊かヘアカタログはあるが、もう何年も前から私のような年代の人間には合わなくなってきており、結局気に入ったその中のひとつかふたつの髪型を何度も繰り返していた。

もう最近はパソコンで選んで印刷、である。

で、ここで問題が露呈するのだが、まず最近の流行なのか、毛先にパーマがかかっているものが圧倒的に多い。

それにより、見た目にも少女らしい初々しい可憐な雰囲気を醸し出している。

つまり、ダイエットが必要な40歳がするには無理がある髪型が圧倒的なのだ。

パーマは可憐路線ばかりではない。

フワフワとボリュームを出したり軽くウェーブを出したり、美容師は私の頭髪や財布の事など考えていないから、調子に乗ってパーマを多用しているのだ。

そこで残った数%の中からのチョイスになる訳だが、さすがはパソコン、無限の情報を持っていなさる。

時間はかかったが、ちゃんと気に入る髪形がいくつか見つかった。

それを印刷し、一応娘ぶー子に見せてみた。

40歳ともなると、ファッションに関する事には不安ばかりなのである。

そして案の定、ダメ出しがなされた。

「これね、みんな分け目がくっきり真ん中にきてるでしょ。これはヤバいのよ、おかーさんの場合。」

身内の優しさか厳しさか、彼女はズケズケと続けた。

「おかんは頭が薄いんだから、これはダメ!分け目を作らないで後ろから前髪を持ってくるのにしないと!!」

そう、もうひとつの問題は、私の髪の薄さであった。

冗談抜きでスカスカなのだ。

ぶー子ご指摘の通り、分け目など地肌が良く見え、我ながら痛々しい。

だからぶー子の言う事には一理あるのだ。

もう一度パソコンに戻り、今度は分け目のない髪形を探した。

何とかその中から気に入ったものを見つけたが、結果からいうと大失敗であった。

腕のいい松本さんが仕上げてくれた段階ですでに間違っていた。

全く似合ってないのだ。しかも10~20歳は老けた。

そして彼がワックスでフワフワに膨らました頭は家に帰るともうペシャンコに潰れていて、今度はクソガキみたいな頭になっていた。

似合わない上に、注文通りの髪型をキープする能力もないのだ。

そして、一度頭を洗ってしまったら再現する能力もないことは簡単に予想できる。

失敗だ。

どだいワックスで整える髪型など、私には無理だったのだ。

そして太ってますます丸くなった顔になど似合う、分け目のない髪型などないのだ。

今の状態では私に合う髪型は存在しない。

自力でセットする技術を磨き、痩せて顔を髪に合わせるしかないだろう。

スパイシーモスバーガーとチキンナゲットを食べながら、そんな事を思ったのだった。