昔、「ロックアップ」という映画を観た。
シルベスター・スタローンが主演の監獄モノだが、彼が酷い拷問にあう場面がある。
もうどういう理由でかは忘れたが、例えば座るのがやっとのような暗い狭い部屋に監禁し、眠ろうとウトウトしたところで煌々と光るライトを当てるのだ。
それを一晩に何度も繰り返すうちに、主人公は壊れていく。
九州滞在中、つまり九州に住むダンナの両親が我が家にいた間、ダンナは私が寝ている寝室で一緒に寝ていた。
寝室を別にしてから久しいが、2日間だけ夜を共にしたのだ。
2日ともダンナが先にベッドに入って行ったが、私がそこに行くと2日ともダンナは私に背を向けるように丸くなってグッスリ眠っていた。
私の女としての価値をまるっきり否定された屈辱はあったが、同時に彼は酷い騒音を撒き散らしていたので「こっちこそ御免だっつの」と言う気持ちになれたのが救いである。
救いか?
長い夜の始まりである。
私は自らを眠りに誘うためにしばらく本を読んでから布団に入ったが、その時は静かになっていた。
まぁ波はあるのだ。
静かなうちに寝てしまおうと思ったのだが、やがてまたガッという音を皮切りに雷のような轟音が轟き始めた。
花粉症を発症した彼のそれは、以前よりも確実にパワーアップされていた。
つっついたり横に向けたりするといっとき止るが、結局繰り返しである。
私は眠いのだ。ウトウトする。
眠りに入る寸前、人は限りなく無防備な状態になる。
私は「いつ鳴るか」「まだ大丈夫か」とその音を恐れてビクビクしていたが、眠りに入る直前はそれすら忘れて全く安心しきっている。
そこへガオー!!と遠吠えが襲ってくるのだ。
当然驚いて目を覚ます。
だいたいイビキというのはGとかZとかの濁音な上、彼は睡眠時無呼吸症候群の気があるのでアタックが非常に強い。
つまり人が不快感を感じる音色をドカンと落とされるのだ。
驚きと怒りで心臓は高鳴る。
その興奮が治まるまで数分、ダンナのイビキが治まるまでさらに数分、ビクビクしてやがて睡魔に負け、無防備な状態になるまで一体何分か。
もう私は寝るのを諦めた。
寝ようと思うから眠れない事が負担になる訳で、寝る気などなければ眠れないことなど屁でもない。
そうなると今度は単に暇なので、ダンナの無呼吸状態の長さを計って時間をつぶすことにした。
平均10秒前後、最長で30秒であった。
頑張ったのでなかなか正確なデータだと思う。
しかしもっと面白いデータは、人間、極限まで眠くなれば、耳元で雷が鳴ろうがいつかはグッスリ寝れるという事だ。
気がついたら朝であった。
しかし今朝に限ってダンナはいつもより数十分早起きしたので、その分私も早起きとなってしまった。
義父母を送り出したらもう一度寝るつもりでいたのでもう睡眠時間などどうでも良かったが、どうしてこんなに「普通に眠る」という事が妨げられるのか、天罰とか呪いとかの域に入ってるような気すらする。
神は罪深い私の元に、ダンナという音源を送り込んだのだ。
私は耐え、悔い改めるより道はないのだろう。
明日から二度寝はしないようにしまーす。
ぽ子♪