人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

『元気』のこと

2匹とも名前もつけないうちに死んでしまいました。

それではあまりにもかわいそうなので、後からつけてやることにしました。

それまでは「しましまの」とか「お腹しろいやつ」とか「くろっぽいの」とか、曖昧かつ言いにくく、

便宜的に、元気なやつに「げんちゃん」、寝てばかりのに「ねぼちゃん」、なぜか娘ぶー子が残りの子に「とんちゃん」と名付け、呼んでいました。

2匹はもらってくれる人が考えればいいし、うちが飼う1匹はもっと落ち着いてからつけようと思ってたのだ。

一番最初に死んじゃったのにはそのまま「元気」と名付けました。

本当に1番元気だったのに・・・。

暴れん坊でミルク飲ませるのにもひと苦労、でも飲み始めるとすごい勢いで飲んでた。

保護して3日目の昼、あんまりミルクの飲みが良くないなぁと思ってたけど、

仕事から帰って来てみたらもうグッタリしてた。

慌てて病院へ連れて行ったけど、もう心臓の音も弱く、脱水症状も出てかなり危険な状態だと。

夜は越せないかもしれません、と言われ、点滴してもらい、薬をもらってかえりました。

そのあともミルクは少ししかのまなくてもうダメかと諦めかけていたら

朝方4時ごろ、元気になってきたのですよ。

嬉しくて、ついミルクをたくさんあげようとして焦ってしまい、飲ませていたら

急にカッと苦しそうに口を開けて、しばらく声も出ないでクァッ、クァッと言ったかと思ったら

あっけなく死んでしまいました。

誤嚥させてしまったのでしょうか。

せっかく元気になってきたのに・・・。

私が殺してしまった。

こんなに小さいままひとりぼっちで逝かせてしまった・・・。

悔やまれて悔やまれて、本当につらい思いをしました。

娘ぶー子は「くよくよしても仕方ない、あと2匹いるんだよ!!」と自分も泣きながら

キッパリそう言いました。

そして朝まで「元気」の亡骸を離さず、寝ていました。

朝が来て、ダンナもぶー子も出掛けてしまうと、ひとりで猫の世話をする事になり

忙しくしていた。

また1匹がグッタリしている。朝イチで病院だ。

「何とかしてあげたいので、日中預からせてください。」

何度も連れて来るので見かねたのか、先生がそう言ってくれた。

ただ、やはり1匹はとても危険な状態なので、もしかしたら、ということも覚悟して下さいとのこと。

家に帰ると誰もいない。

これまでずっと子猫一色だったから急に時間ができて、ポカーンとしてしまった。

部屋には「元気」の亡骸だけがいる。

動かなくなったこの子がかわいそうでかわいそうで、

ついつい見に行っては抱き上げてワンワン泣く。

午前中はこうして過ぎてしまった。

昼過ぎにぶー子が帰ってきた。

さすがに疲れたのか朝、具合悪そうにしていたから

ぶー子も辛いだろうし、早退していいと言ってあったのだ。

正直私もこのままひとりは辛かった。

さて、この「元気」をどうするか考えなくてならない。

霊園に頼むと、とてもじゃないけど個別でお願いする余裕はないから

(実はもう1匹も・・・という気持ちもあったのも事実)、

合同でということになる。

誰かわからない他の骨と一緒に混ぜられて、ひとりぼっちで遠くに行くのはかわいそう。

でも家の庭に埋めるなら、この子を自分の手で埋葬しなくてはならない。

小さなかわいい、本当にかわいい死に顔だ。

とてもじゃないけど土をかけて埋めるなんてできない。

さっきまでこの手の中で動いていたのだ。

ダンナがメールで「俺はウチの庭にお墓を作ってあげたい」と送ってきた。

それを聞いたぶー子もそうしたいと言った。

仕方ない、どちらか選ばなくてはならないのだ。

「リビングから見えるところに埋めてあげよう。」ぶー子の言葉で心を決めた。

ぶー子が自分のアクセから十字架を選んで「元気」に抱かせた。

白いハンカチにスッポリ包まれてしまう。

こんなに小さいまま死なせてしまって・・・本当にごめんなさい。

リビングの前の木の根元を掘る。雨が降っている。

土の中に埋められた「元気」は冷たい雨に濡れていくだろう。

もう頭がおかしくなりそうだ。

穴が掘られると、いよいよお別れの時だ。

最後にもう一度「元気」の姿を見る。これで最後になってしまうと思うとなかなか踏ん切りがつかない。

「ごめんね、元気・・・。」

思い切って土をかける。

途中で止めて掘り起こしたくなったけど、必死で我慢した。

つらい時間だった。もう二度とこんな思いはしたくない。

部屋に戻るとやりきれなくて飲むことにした。

病院の先生は私達が少しでも休めるように思いやってくれたんだろうけど、

とてもじゃないけどこんな気持ちじゃ眠れない。

「ぶー子、飲むか。」

「うん。」

高校生の娘に酒の相手をさせて気を紛らわせようなんて、不甲斐ない親だ。

でもやりきれないのは彼女も一緒だろう。

私たちはこの悲しみを共有しているのだ。

今日ぐらいいいだろう。

ぶー子だって悲しいはずだ。それはよくわかる。

でも何でそんなにキリッとしてられるんだ?

私は何度もしっかりしろ、と言われた。

「私だって『元気』に謝りたいよ。でもキリがないじゃん。

お母さんみてると自分で悲しい方に悲しい方に追いやってるように見える。

それじゃ先に進めないんだよ。まだあと2匹いるんだよ。

絶対に育てる。」

何でこんなに強くなれるんだろう。

親が不甲斐ないと子供は強くなるものなのか。

「泣きたくなったら奥歯をギューッと噛みしめるんだよ。

そうすると涙は出ない。」

この子はこれまでそうやって何度も涙を堪えてきたんだろう。

私はこれまで涙を堪えるという事をした事があっただろうか?

そうして話しているうちに、不思議と元気になってきた。

最後にはいつものように爆笑しながら喋っていた。

ぶー子、ありがとう。

酒よ、ありがとう。(ここでもか。)

「元気」を葬ったら不思議と踏ん切りがついたようで、気持ちの切り替えができてきた。

なまじっか遺体が側にあるのは良くないようだ。

気持ちがどうしてもそっちにいってしまうし、いつまでも悲しみから抜け出せなくなってしまう。

別れは辛かったけど、こうして先に進んでいけるのだろう。

さよなら「元気」。

安らかに眠ってください。