もうそこにそれが置かれてから、2週間は経つだろうか。
ダンナのパジャマのズボンである。2枚。それが階段の中ほどに。
ゴムを入れ替えて欲しいというので、やろうと思って2階のタンスから下ろし、それでもなかなかやらなかったので邪魔になり、階段に置いたということである。
そもそもこのゴムが伸びたので変えて欲しいと言われたのは、もう2年ほど前のことである。
やりますやります、ハイハイ、と言いつつも億劫なので後回しにしているうちに、こんなに時間が経ってしまった。
だいたいゴムを替えるためには、ゴムの幅を計ったり、ダンナのウェストのサイズを計ったり、ゴムを買いに行ったりと、作業前にもこんな面倒があるのである。不器用で忘れっぽくグータラな私には、極めて難易度が高い。
その結果がこの年月である。
その間にダンナは、観念して自分なりにとりあえずの解決をした模様である。それも私のグータラに拍車をかけた。
ダルダルに伸びたゴムは若干の伸縮性のあるヒモと化し、しばらくはダンナの腰に引っかかっていたことだろう。
腰の位置が下がるのである、ズボンの裾の位置も下がる。恐らく踏むか踏まないかの不快な丈になっていたはずだ。
そこでダンナはこうして結んで、ウェストを細く絞ったのであった。
このような状態のズボンを穿いたことがないので、このズボンのどこに不満があるのか分からない。もしかしたらこれでもう十分だったのかもしれない。
しかし私には「頼まれごとをやらない」という後ろめたさがつきまとう。
2年も放置して平気だったのは、「いつかやる」という気持ちがあったからである。
やらないでしらばっくれようとしたのではない。そんな風に思われたらたまらない。
そしていよいよ腰を上げたのが、昨日だったのであった。
ゴムはもう買ってはあった。
「太さを計る」のを難易度のひとつに挙げたくせに、買う時は適当だ。「多分こんなもん」という読みで買ってきた。
その時に、ひも通しも買った。
ゴム通しなら、やったことはある。
前にも書いたが、ドケチ家庭に育ったのである。ゴムは伸びたら取り換える、ボタンも取れたら取り換える、靴下だってつぎ当てをしていた頃もあった。
ひも通しはその画期的なことに驚いたので、良く覚えている。
まずはゴムの先にこれをしっかりくっつけ、それをゴムを通すところに入れてみる。
この開いた先をゴムの端に噛ませるのだ。
あとはこのひも通しを手探りで進めていくだけである。
しかしこれがヒモならサクサク進むんだろうが、太いゴムである。通路に対してサイズ、ギリギリ。
抵抗を感じつつ、進めて延ばして、進めて延ばして。
少し進んだところで突然、抵抗がなくなった。ひも通し、外れたねEE:AEB64
こりゃ結構繊細な仕事だぞ。ゴムが外れないように、噛み合っている部分を押さえながらゆっくり確実に進めないと。
→スタートに戻る。
何事も、慣れだ。2回目はちょっとばかりコツをつかみ、もっと先まで進むことができた。
しかしやはり外れた。
ムキーEE:AE4E5
3回目はさらに進んだだけでなく、スピードも上がった。
熟練とは経験のたまものである、などと考えつつ半分ほどきたところで、また外れるのである。
この噛むところ、弱いんと違うEE:AEB2F
こっちにしよう。
この穴に通して、進めていくのである。
そもそもは「ひも通し」である。穴にひもを通したら外れないように結んだりするのだろうが、これは1.5cmほどの太さのゴムだ。
無理やり穴に通したら、それだけである。
気持ち長めに通し、ゴムの先が外れにくいように折り曲げて進めることにした。
おお、こっちの方が早いぞ。
結果的には1回抜けたが、2回目でついに通しきることができたのだ。
終わりEE:AE595
とっさに最後に見たゴムの結びつけられた残像が浮かんできたが、ブルンブルン、違うでしょEE:AE5B1
縫うのか??
イヤ感が沸き上がり、先日買った布用接着剤を思い出す。
これ、ゴムね、この接着面、反発し合うね、きっとすぐ取れちゃうねEE:AE5B1
観念して針と糸を出す。
もう針穴も糸の先も全然見えないが、感覚で通したぞ、奇跡EE:AEAAB
まぁここさえクリアできれば、後はしっかり留まってさえいればいいのである。
どうせ見えないのだ、見栄えなんてどうでもいい。何度もしつこく縫い付ければいいだろう。
本当に見栄えの悪い仕上がりになったが、できた。
はぁ、2年越しの後ろめたさの半分が、これでクリアである。
サッサともう1枚もやってしまおう。またひとつ熟練に近づいて、もっと手際が良くなっているはずだ。あ。
ひも通し、一緒に縫い付けてしまったEE:AEB64
もうこれには参った。ここで投げ出したくなったが、せっかく半分まで減りそうになった後ろめたさがまた戻って来るかと思うと、気が重い。
縫ったところを切ってひも通しを救い出し、縫い直し。
2枚終わったところで、1時間が経っていた。
終わった。
数ある私の後ろめたいもののひとつが、解決したのである。
しかし結果はこれからだ。
なぜかというと、ウエストの長さも全くの適当なのである。