「ぽ子~?悪いんだけど、今日ちょっと来れないかしら??」
母だ。
寒さに弱い庭の植木を、2階の部屋まで持って行って欲しいという。
はぁ別によござんすよ。
2階の部屋を思い浮かべる。
そこはもともと兄の部屋だったところで、日当たりが良く、冬になると窓際にたくさんの鉢植えが並んでいた。
我が家の音楽室も、似たような状態になりつつあった。
母がおすそ分けをくれたりするからだが、ウチの方はもう移動が面倒で、一年中ここに置きっぱなしだ。月下美人、重過ぎる。ほったらかしなので咲かなくなってしまったというのに。
実家に行き、ひとしきり母の愚痴を聞くと、「で、植木を・・・。」と切り出した。
きりがないのだ、この頃の母の話は。
リピートも多いので、適当に切り上げなくてはエンドレスである。
「そうそう、それがね・・・・。」
立ち上がって庭に向かった母は、「あれをどうしようかしら。」とブツブツ言っている。
一緒に庭に行くと、そこには大きなオリヅルランがたくさん並んでいた。
「大きくなっちゃってねぇ。あんた、いらない??」
ブルンブルン、いりません、いりませんっ!!
それ、前にも何度かもらった気がするが、すごい増えるでしょ。
だいたい夏に枯らすから結局ゼロになるが、これでは母のオリヅルランの数を正常に保つために私が間引いているようなものである。
枯らさなければいいのだろうが、枯らさなければ確実に増える。今のこの庭のように。
「ゾンビじゃん、これ。私はもういいよ。」
断ると母は、「そうなの、ゾンビなのよ、困ったわ・・・。」と言ってオリヅルランを鉢から出し、巨大化した株をいくつかに小分けしていった。
その中から根の大きなものをいくつか鉢に戻し、2階へ持って行ってくれと指示する。
こうしてスマートになったオリヅルランが4鉢ほど、2階の暖かい地域へと運ばれた。
庭にはもともとあった量の半分ぐらいが残され、無残に放り出されている。
「ねぇ、いらない??捨てるの、可哀想よ・・・。」
そりゃ可哀想だ、私だって胸が痛む。
しかしウチに来てもどうせ枯れるのだ。同じことである。それなら手を下す役にはなりたくない。
枯らさないという選択肢も、それはそれで困った結果になるのだ。それが今の母の状態である。
「悪いけど、一度踏み入れたら泥沼になりそうだから・・・EE:AE5B1」
分けてあげるような人もいないし、いたらいたで恐ろしいゾンビをあげるのはためらわれるし。
「そう・・・、じゃあ捨てるしかないわね、ぽ子がいらないって言うから、捨てるわ。」
ちょっ・・・、そういう言い方は・・・。
2階に持っていった命拾いしたヤツに水をやりに行き、その短い間に覚悟を決めた。
「・・・もらいます、ハイ、可哀想なので少しだけEE:AE4E6」
ちょうどそこにあったレジ袋を差し出すと、「あらそうEE:AEAAB」と母は嬉しそうだ。
まぁいいか、これも親孝行であるEE:AE5B1
帰り支度をして玄関にそれらを持って行く。
一度庭の方に戻ると、「残った可哀想なやつ、捨ててきたわ。」と言った。
ヤメテ、いちいち言わないでいいからEE:AEB64
「言うと楽になるのよEE:AEACD」
「そちらは楽になりますがね、私が重いわEE:AE4E5」
「誰かに言えばいいじゃないEE:AE5BE」
そのように悲しみを感染させるのはどうかと思ったが、確かに言うほどに悲惨な感じは薄れていく気がする。
残ったオリヅルランは、生ごみと一緒に捨てられた。
私がダンナに言う頃には、もう笑い話になっているかもしれない。
こうして、小さな命は消えていったのであった。