救命救急センターで日夜戦っているドクターが、手紙形式で語るセンターの日常だ。
「救命救急」というだけあり、時間を問わず運ばれてくる患者は重篤な状態の患者ばかりである。
著者が「戦場のような」と表現するほどの現場が生々しく語られているが、ぶっちゃけ過ぎて正直少々不快な気分になった。
後にインタビューで「的確で敏速な意志の疎通にはああいう物言いが有効なんです。」と説明していたが、過激な現場に慣れるということは、こういうことなのだろうか。
患者が運ばれてくるという連絡に対して「何だい?モノは。」
手術着に着替えながら「嫌だぜ、目の前でお母ちゃんに泣かれるのは。」
これから運ばれてくる患者が「瀕死の重傷で、もうとても手が出せないぐらいだといいな。」
「できれば救急車の中でこと切れてから来てくれればいいんだが。」
冗談でとは断っているが、もう助からない患者に対して「この患者さんは廊下でいい。」
限りあるベッド、植物人間を作り出す疑問、著者なりの思いがあるのだろうが、命を預ける側としてはたまらない言葉ばかりである。
思わずそんな言葉も出たくなるというのは分からなくもないが、それは現場に留めるべきで、外に発信するべきではないのではないか。
思い切った決断をしなくてはならない連続で、きれいごとでは済まされないのは分かる。
しかし、レストランの厨房の「時間がないからちょっとぐらい生でもいいから出せ!」と言う環境を本にしてしまったら、それは単なる暴露本である。
医者の側にしか分からない現実を知るには興味深い本だったが、あのようなセリフを載せなくてもそれは伝えることができたのではないかと思うと残念だ。
あくまでも、「こちら側」の一読者としての感想であり、実際に「さぁあなたの家族、このまま死なせますか、植物状態で生かしますか。」と聞かれたらムチャクチャ困るが。
その尻拭いを医師に押し付けているのが現状なのだろうか。
ぽ子のオススメ度 ★★☆☆☆
「救命センターからの手紙」 浜辺祐一
集英社文庫 ¥457(税別)