昨日の健診でのことだ。
会場は市内のスポーツセンターであった。
ここで、ダンナが所属している健康保険組合の健康診断が毎年行われている。
季節は秋、自転車で気持ち良く行き来できる頃でありがたい。
検査着に着替え、ひとつずつ検査を終えていく。
クライマックスは胃のレントゲンだ。
外のレントゲン車に移動し、バリウムを飲み、上下左右に撹拌されて戻る。
今回の検査着はなぜかウエストのゴムが緩く、私は片手で腰を押さえながら再びスポーツセンターの入り口を目指していた。
その時ふと足元を見ると、鮮やかなオレンジ色の虫が目を引いたのだ。
アシナガバチであった。我が家にも巣があるので、すっかり見慣れてしまった蜂だ。
そしてそのアシナガバチは、断末魔の苦しみに耐えているように、地面でのたうち回っていた。
体長4、5センチもあろう立派なその蜂が、恐らくもう抗いきれない「死」と戦っているのである。
これは、天寿を全うする、などという最期ではなさそうだ。
私の想像しうる限り、蜂の最期はもっと静かでひっそりとしているものである。外敵にでも襲われない限り、それが昆虫の自然な死ではなかろうか。
これは突然に何者かに襲われた結果ではないか、ふとそう思った。
朝やかなオレンジに黒のストライプ、ほっそりとした胴、長い足に長い触角。
どこか気高く、犯しがたい尊厳を持っているようなアシナガバチ。
それが今目の前で、敗北の姿を晒して死と戦っているのである。
いたたまれなくなって、足を早めた。
着替えを終えて外に出た時にはもう、彼はこと切れていた。
今となっては、ただの死骸だ。風に吹かれて植え込みにでも紛れ込んでいくだろう。
これが自然の摂理というのだろうか。
今後庭の蜂は、生かしておくことにする。
なぜかそんな気持ちになった。