知らなかった、世の中の人たちはこんなにいい思いをしていたなんて。
一応眠れない前提で早めに布団に入ったが、目を閉じて「気持ちいい」と思った瞬間が最後だ。
次には目覚ましが鳴っていた。
薬の効果である。
私は意固地になって頑張り過ぎた事を悔いた。
眠気は残っていたが、「眠れた」という充足感。
朝だ。
これが正しい朝なのである。
これでもう二度寝の言い訳はできない。
まぁいい。
寝なければゲームができるのだ。
しかし今日は、母に会わなくてはならない。
その時間によっては、またゲームを我慢しなくてはなるまい。
早く帰れますように・・・、じゃない!!
しっかり親孝行して帰ってくるのですよ、ぽ子。
行き先は銀行だった。
「保険の事でね、受取人がいないとダメだっていうから。」
去年と同じ銀行である。あの時の保険がどうかしたのか?
「でね、今、円高でしょ?だからゴードルにしようかと思ってEE:AEAC5」
あ?
何を言っているのだ、この人は。
「ゴードル?」
豪ドルの事であった。
円高のせいで米ドルで預金してある分がどんどん減っていくので、どうせなら利率のいい豪ドルに変えたいというのだ。
こういう類の話を何と言うのかすら分からないが、そりゃ確かにそうかもしれない、それぐらいは何となく分かった。
しかしフタを開けてみるとこれもまた保険であった。
何で保険にする必要があるのか?
一応死亡保障がついているらしいが、そういうのは他に入っているし、保険なんかもういいじゃないか。
銀行の言いなりなのである。
私はキーキーまくし立てるように契約を迫る銀行員に少々腹が立ち、「これは単純に、預金を豪ドル(そんな言葉を初めて発声した)にする訳にはいかないのですか?」と聞いてみた。
ところがこのキーキーが、キーキー言うばかりで人の話を最後まで聞かず、全くお門違いの答えばかり言うのでますます怪しく感じてきたのだ。
結局保険の担当の人が説明に来たが、預金を豪ドルにするには一度「円」に戻さなくてはならず、そこで大損するらしいのだ。
この保険だと米ドルからダイレクトに豪ドルにできるとの事である。
ここで一応疑問はすべてクリアにしたので契約したが、一体いつ円になって戻るのだろう、この金は。
満期時のレートによるのだろうが、これはギャンブルである。
聞けば母はこの他にも、銀行の言うがままにあれこれ手を出しているようだ。
掃除機や羽毛布団の訪問販売程度なら私にも撃退できるが、この手の事(だからこういうのは何ていうのか?マネーゲーム??笑)には全く知識がないので、私も銀行の言うなりだ。
言うなり親子である。いいカモだ。
増やそうなどとよこしまなことは考えずに、コツコツ貯金していれば一番安心だと思うのは、夢がなさ過ぎなのだろうか。
私の夢はキングダムハーツ程度で充分なのだが。
そして今回も、アルミホイルだのボールペンだのたくさん入った紙袋をもらって、銀行を後にした。
まぁ母が幸せならいい。
結果はそこである。
とか言いつつ、「この保険は、日本円から豪ドルにもできるんですか?EE:AEB61」などとちゃっかり聞いていたぽ子であった。