村上龍と村上春樹。
どちらも非常に人気のある作家だが、私は草食系の「春樹」をこよなく愛し、肉食系の「龍」には馴染めなかったクチである。
なのでこれは気まぐれで読んだ本なのだが、いやー、面白かった。
これは素晴らしい。
21歳の秀樹は引きこもり、妹の知美はただ何となく大学を目指している高校3年生。
母親は13も年下の恋人と逢瀬を重ね、父親はリストラの可能性を家族に隠している。
崩壊寸前の家庭であった。
しかし秀樹は一歩前に出ようと、黒い紙で塞いでいた窓に、小さな穴を開けたのである。
少しずつ見えてきた外界。そこには、夫に殴られる隣人の姿があった。
やがて秀樹はカメラを備え付け、監視を始めるようになる。
フィルムと電池が必要だ。
彼女を助けるにはどうしたらいい?
少しずつ動き出す秀樹だが、家族との軋みは変わらず、相変わらず突然キレては暴力を振るう秀樹。
家族の行く末は・・・。
4人それぞれの視点で、交互に描かれる同じ時間。
それぞれの思いが交差するのが、良く分かるようになっている。
すれ違ってはいるのだが、家族みんなの思いは実はひとつなのである。
もどかしく、先が読めないのでグイグイ読まされた(笑)
秀樹の引きこもり特有の思考や父親の意地の描写がリアルで、ドラマであることを感じさせない。
果たしてみんな、自分に足りなかったものに気付く事ができるのか。
再生か、崩壊か。
「一番大事なのは、一人で生きられるようになる事だと思うよ。」
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「最後の家族」 村上龍
幻冬舎文庫 ¥571(税別)