見てはいけないもの。立ち入ってはならないもの。
人は、そういうものに恐れを抱きながらも、好奇心が働くものである。
ある日ぶー子は学校で、時間が余ってしまったからとパソコンルームに行き、暇を潰す事にしたらしい。
その時彼女は、以前携帯のサイトで見た「絶対に検索してはいけない言葉」というものを思い出し、片っ端から検索する事を思いついたと言うのだ。
残虐な動画や道徳に反するもの。
ぶー子はゲンナリとして「最後まで見れなかった・・・」とその時の話をしてくれたのだが、その中でひとつ、ぽ子の好奇心が勝ってしまったものがあった。
以前もちょっと書いたことがある話だが、「ひとり鬼ごっこ」である。
怖い話は、決して得意ではない。
むしろ、あとで後悔する事が多いので、もう聞くのは止めにしようと常に思っていた。
しかし、怖いが本当は興味がある。
なので、自分に起こりえない話に限ってだけ、ちょっと覗いてみる事があるのだ。
そこに行かなければいいとか、それをしなければいいとか、そういう話だ。
これは「ひとり鬼ごっこ」という、簡単に言うとレイ(恐くて変換できません)と深夜にかくれんぼ(タイトルは鬼ごっこだが)をする遊びである。
フィクションではない。
その方法があるというのだ。
かなり有名なものらしく、試した人の話は検索すればいくらでも見ることができる。
私が開いたのは2ちゃんねるのスレッドで、かくれんぼをしながらリアルタイムで書き込みをするというものだった。
まぁ、ネットの掲示板だ。
嘘かホントかは分からないが、とにかくそこには数人の勇士がかくれんぼに挑み、そこで起こることを書き込んでいく。
私は一番最初から読んだ。
初めはひとりが方法を示し、良かったら一緒にやりませんか?と仲間を募っていた。
それに応えたのはたったひとりだったのだが、この一人が方法を間違えて大変な事になる。
やがて参加していない人も彼を案じて、夜が明けるまで頑張れ!!と励ますのだ。
「ひとり鬼ごっこ」は、深夜3時に始めて2時間を過ぎないようにと時間が限定されているのでこの日はこのふたりだけだったが、これを見て「次は自分が」という人が数人現れた。
実況できるように携帯やノートパソコンを持って押入れに隠れる。
「窓がガタガタ言い出した」
「テレビが今消えた」
「怖いからもう終わりにしたい」
「何か聞こえる」
「終わらせたいけどぬいぐるみがない」
まるで映画でも観るような臨場感である。
自分はやらなければいいのだ。
こうして見ているだけなら、映画と何ら変わるところはない。
書き込みの真偽など、どうでもいい。
あなたは映画を「作り物だから」と言って遠ざけるのか?
書き込みは前日よりも、ずっと増えていた。
参加者の周りでは次々に異変が起こり、傍観者は止めろ、頑張れ、と声援を送る。
その時私の時間は深夜の12時半を回ったぐらいであったが、不思議と恐怖心はなかった。
しかし、
「これって、ROMってるだけでもヤバいんですか?何か窓がガタガタ言い出したんですけど」
ROMと言うのは、書き込みに参加しないでただ見ているだけの行為を指すが、ちょー待ち!?
ROM=ぽ子でもあるのだ。
この言葉で私の立場は、突然「傍観者」から「参加者」となってしまった。
急に恐くなり、すぐにパソコンを切って寝ることにした。
私はビビりなのである。
絶対に自分に害がないという前提だから、高みの見物ができたのである。
私はダンナの布団の中で寝ていたエルを連れて、寝室に上がった。
早く寝ないと3時になっちまう。
しかしこのままでは恐くて眠れない。
布団の中で、マンガを読んだ。
やがて睡魔が訪れたので、電気をつけたまま目を閉じた。
凄く眠い。
良かった、これで眠れるのだ。
オヤスミ・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
地震・・・?
やがて、訳の分からない恐怖で目が覚めた。
何か揺れのような音のようなものがして、目が覚めたのだ。
ドドドともガガガともつかないような音がした。
何・・・?
「今、地震ありましたか?」
ひとり鬼ごっこの書き込みで、参加者がそう言った場面があった。
今のは何?
ディアブロスが地中を移動するような音だ。
地震のようだが、地震ではない。
ママー、怖いですーーEE:AEB64
そうだ、エルッ!!
猫は魔よけになると聞いて、連れてきたのだ。
手を伸ばすとエルは布団の上にいた。
寝ているはずである。
ところが体を起こしてエルを見ると、何とエルは、上半身だけスッと起こしてドアを凝視していた。
胸がドキドキと高鳴る。
手足がカーッと熱くなり、汗が滲んでくる。
怖い、怖い、怖いっ。
もうぽ子は、心から後悔した。
興味半分であんなサイトを見たからいけないのだ。
ごめんなさい、ごめんなさいEE:AE473
こんな状態じゃ眠れないが、とにかく一刻も早く寝て逃げてしまいたい。
今何時なんだろう?
NO、NO、気にしない気にしない・・・。
ムチャクチャ静まり返っている。
何か変なものが聞こえなければいいのだが。
その前に早く寝ないと。
あぁ、エルがいてくれて良かった。
エル。
もう一度チラリとエルを見てみると、さっき見たときからずいぶん時間が経っているにも関わらず、エルはまだドアを見ていた。
こうなったらエルも恐怖の対象である。
手には震えがきた。
忘れよう、これはいつもの夜である。
ゲームゲーム。
モンハンのことを考えよう。
ぽ子の自慢のしびれハンマー、いつかちゃんと使いこなせるようになりたいな。
私はしびれハンマーを使いこなして、どんどんモンスターを倒す場面を想像した。
子供並みの逃げ方である。
やがて、娘ぶー子がトイレに行く気配があった。
いつもならこんな時間にそんな気配で眠りを邪魔されて腹立たしいところだが、おお、まだ起きていたか。
ひとりじゃない、私はひとりじゃないぞ。
安心して眠りについたのは、夜が明けてからだ。
今日は朝イチで美容院を予約してあったが、寝坊したので20分で支度して出る羽目だ。
ぽ子の体験は、まだ怪奇現象とは言えないものである。
もしかしたらエルがガガガと足で頭を搔いた音が、怖い思いをして寝た私に変な風に響いただけかもしれない。
もしかしたら私が起きるちょっと前に、ぶー子が起きてバタバタしてエルが目を覚ましたのかもしれない。
しかし、答えは分からない。
こんな恐怖は二度と御免だ。
もう絶対に絶対に、この扉は開けない。
鍵をかける。
封印する。
「興味本位」とは罪なのだ。