サイコパスとは精神の奇形である。
彼らは共感する能力を欠き、他人の感情や不幸に対して無情で冷笑的だ。
それどころか人を騙していたぶり、不幸のどん底に落とし込むことを喜んで行う、
恐怖の叫び声を上げる被害者を前にして、サイコパスはせせら笑う。
他人の感情に冷淡で、ためらうことなく自分勝手な話を述べることは、サイコパスの特徴である。
精神科医である岩波明氏による本書解説にあった、サイコパスの特徴だ。
事件の主犯・松永太は、その典型である。
この事件はそのあまりの残虐性から報道規制が敷かれたとのことで、私もあまり印象に残っていなかった。
その特異な事件についてのルポルタージュだ。
松本は、巧みな話術で周囲を魅了し、取り込んでいく。
事件の概要だけ見れば、「なぜ?」としか言いようがない。
身内への拷問、殺害。遺体の解体は、幼い子供も強要された。
松永本人は手を下さず、はっきり指示も出さず、暗に匂わせるだけ。
どうしてそんなことができる?
どうして逃げなかった?
松永によるマインドコントロールは、徹底していた。
松永自作の通電装置で電気ショックを与え、ことあるごとに拷問にかける。
食事、睡眠、排泄も松永の規制下にあり、被害者は風呂場での生活を強要されていた。
被害者は、自分の意志をなくしていく。ただひたすらに、松永の思うように行動すること。
利用価値がなくなれば、殺されていく。その数、子供も含め7人。しかし松永が直接手を下したものはない。
それでも事件が発覚すれば、裁判の判決で松永は死刑となった。
そしてその内縁の妻、順子も一審判決では同様に死刑であったが、果たしてマインドコントロール下にあった順子は同罪なのか。
著者が一番伝えたかったのはその部分じゃないのかと、感じられた。
松永というサイコパスの恐ろしさと、それに取り込まれていった順子の悲劇。
ぜひあとがきまで読んでもらいたい一冊だ。
ぽ子のオススメ度 ★★★★☆
「消された一家・北九州連続監禁殺人事件」 豊田正義
新潮文庫