人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

殺人犯はそこにいる / 清水潔

えー、また事件モノのノンフィクションを・・・EE:AE5B1続いてしまいますが。

以前に感想を書いた桶川ストーカー殺人事件の著者である清水氏の、執念と正義の1冊だ。

中心となる事件は、平成2年に起こった「足利事件」と呼ばれる幼女殺人事件である。

著者は当時テレビ局の記者であり、「日本を動かす」というコンセプトの番組を作ることになり、この事件に着目した。

調べてみるとこの事件の前後に、この殺人現場の周辺で17年の間に5人もの女の子が姿を消していることに気が付いた。

これは、連続殺人ではないのか。

しかし、犯人が逮捕された後にも、事件は起こっている。

そして、犯人となっていた人物は冤罪を訴えて、再審求めていた。

何かがおかしい。

こうしてまた桶川の事件の時のように、著者は動き始めた。

「小さな声を聞く」、これが彼のモットーだ。

警察の発表、公式の記録、こういったものほど、「小さな声」をもみ消している。

遺族、証人、目撃者・・・。

自力で探し出して、話を聞き、仮説を立てる。

そして犯人とされていた人物・菅家利和さんの冤罪を確信し、警察に迫るも取り合ってもらえず、「報道」というアプローチで攻めていく。

国家を敵に回し、国民に訴え出るのだ。

こうして菅家さんは晴れて釈放されたが、著者の目的はそこで終わらない。

これは、連続殺人事件ではないのか。

そしてこれが冤罪なら、犯人が他にいるということである。

桶川の事件同様、落ち度を認めたくないがために動かない警察に代わり、著者は犯人を捜し始める。

そして、執念で捜し当てたのである。

証拠を揃えた。

居場所も行動範囲も教えた。

それでも警察は動かなかった。

ここで「真犯人」が現れると、過去のDNA鑑定の判定自体が大きく揺らぐ。

そうなると、冤罪ではないかと言われつつすでに死刑になってしまった事件が、表ざたになるのだ。

お前がどこのどいつか、今はまだ書けない。

だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。

いいか、逃げきれるなどと思うなよ。

著者の最後の言葉に、その無念が伝わってくる。

単なる報道記者を超えた正義に、胸が熱くなった。

そして国家、警察の体質に不信感が沸き、報道のあり方というものについて考えさえられた。

あとがきより。

時に何かに躓いて大切なものを失うこともあるかもしれない。

それを絶望と感じることもあるだろう。

でも大丈夫だ。大抵の事なら取り返しがつく。何とかなる。やり直せる。

私はそう信じて生きている。

だが「命」だけは違う。

唯一無二。

どれほど嘆こうが取り戻すことなどできない。

どれほど、どれほどどれほどどれほど嘆いたところで、戻らぬものは戻らない。

私はそれを娘の死で痛感した。

私は、そこにこだわらずにはいられない。

だからこそ、現場に通う。

頭を垂れるような思いに駆られる、尊い命の姿があるからだ。

ぽ子のオススメ度 ★★★★★

「殺人犯はそこにいる」 清水潔

新潮文庫

  

EE:AE53Bおまけの話EE:AE53B

実はこの本は、AMAZONの中古を買ったのだが、手元に届いた本には「文庫X」というカバーかかけられていた。

これは2016年の夏に、さわやか書店フェザン店で「タイトルと著者を隠して、店員がおすすめする」という手法で売られたものであった。

確かに、掛けられたカバーには一面に、この本をすすめる理由がビッシリと書いてある。

なんじゃこりゃとビックリした(笑)