えー、また事件モノのノンフィクションを・・・EE:AE5B1続いてしまいますが。
以前に感想を書いた桶川ストーカー殺人事件の著者である清水氏の、執念と正義の1冊だ。
中心となる事件は、平成2年に起こった「足利事件」と呼ばれる幼女殺人事件である。
著者は当時テレビ局の記者であり、「日本を動かす」というコンセプトの番組を作ることになり、この事件に着目した。
調べてみるとこの事件の前後に、この殺人現場の周辺で17年の間に5人もの女の子が姿を消していることに気が付いた。
これは、連続殺人ではないのか。
しかし、犯人が逮捕された後にも、事件は起こっている。
そして、犯人となっていた人物は冤罪を訴えて、再審求めていた。
何かがおかしい。
こうしてまた桶川の事件の時のように、著者は動き始めた。
「小さな声を聞く」、これが彼のモットーだ。
警察の発表、公式の記録、こういったものほど、「小さな声」をもみ消している。
遺族、証人、目撃者・・・。
自力で探し出して、話を聞き、仮説を立てる。
そして犯人とされていた人物・菅家利和さんの冤罪を確信し、警察に迫るも取り合ってもらえず、「報道」というアプローチで攻めていく。
国家を敵に回し、国民に訴え出るのだ。
こうして菅家さんは晴れて釈放されたが、著者の目的はそこで終わらない。
これは、連続殺人事件ではないのか。
そしてこれが冤罪なら、犯人が他にいるということである。
桶川の事件同様、落ち度を認めたくないがために動かない警察に代わり、著者は犯人を捜し始める。
そして、執念で捜し当てたのである。
証拠を揃えた。
居場所も行動範囲も教えた。
それでも警察は動かなかった。
ここで「真犯人」が現れると、過去のDNA鑑定の判定自体が大きく揺らぐ。
そうなると、冤罪ではないかと言われつつすでに死刑になってしまった事件が、表ざたになるのだ。
お前がどこのどいつか、今はまだ書けない。
だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。
いいか、逃げきれるなどと思うなよ。
著者の最後の言葉に、その無念が伝わってくる。
単なる報道記者を超えた正義に、胸が熱くなった。
そして国家、警察の体質に不信感が沸き、報道のあり方というものについて考えさえられた。
あとがきより。
時に何かに躓いて大切なものを失うこともあるかもしれない。
それを絶望と感じることもあるだろう。
でも大丈夫だ。大抵の事なら取り返しがつく。何とかなる。やり直せる。
私はそう信じて生きている。
だが「命」だけは違う。
唯一無二。
どれほど嘆こうが取り戻すことなどできない。
どれほど、どれほどどれほどどれほど嘆いたところで、戻らぬものは戻らない。
私はそれを娘の死で痛感した。
私は、そこにこだわらずにはいられない。
だからこそ、現場に通う。
頭を垂れるような思いに駆られる、尊い命の姿があるからだ。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「殺人犯はそこにいる」 清水潔
新潮文庫
実はこの本は、AMAZONの中古を買ったのだが、手元に届いた本には「文庫X」というカバーかかけられていた。
これは2016年の夏に、さわやか書店フェザン店で「タイトルと著者を隠して、店員がおすすめする」という手法で売られたものであった。
確かに、掛けられたカバーには一面に、この本をすすめる理由がビッシリと書いてある。
なんじゃこりゃとビックリした(笑)