同じ奥野修司著の魂でもいいから、そばにいてにも登場した、在宅医療のパイオニア・岡部健氏。
そもそもがガンの専門医として大病院に勤めていたが、やがて「病院にはできないこと」に心を動かされていく。
余命いくばくもない患者に施される、過酷な治療。
患者たちが本当に必要としているものは何か。
患者たちの声を聞いているのか。
「患者を全員、家に帰す。」彼らが安らかな死を望んでいることを確信した岡部氏は、こうして在宅医療にのめり込んでいくのである。
岡部氏の読みは大当たりで、多くの患者が自宅で穏やかに亡くなっていった。
しかし、課題も多い。
本来なら医療全体がこのようにあるべきなのに、医学の進歩、儲け主義、医師の無知・傲慢、社会のシステム・・・、あらゆるものがそれを阻む。
昔、人間はみな、家で死んでいったのだ。「死」は忌むべきものでも恐怖でもない。
当たり前の「看取り」を取り戻すべく、岡部氏は全力を尽くす。
しかしついには、彼自身もがんに冒される。余命は10ヶ月。
あるべき「死」を迎えられるよう自らも死に向かいながら、ギリギリまで活動する岡部氏の生きざまに、執念を見る。
Q.O.L。Quality Of Life。生活の質だ。生きるとは、これに尽きる。長く生きたって、それが苦痛であれば、希望はない。
Q.O.Lを第一に考えた岡部氏が亡くなったのは、62歳であった。
読者は、あるべき死を目の当たりにする。
読み終わる頃には、自分も自宅で枯れるように死んでいきたいと願っている事だろう。
「死」を、病院から自分の元に取り戻す。
私の死は、私の死でありたい。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「看取り先生の遺言」 奥野修司
文春文庫