このコロナ騒動の中、父が突然送ってきた本である。電話中にちょっと話題になったことで、思い出したようだ。
「ロビンソン・クルーソー」の著者が描く、1664年に流行したペストの、ロンドンでの様子である。
最初は静かな始まりであった。
得体のしれない不気味な予感の中、ジワジワと魔の手を広げていく疫病。
気付けばロンドンの街はすっかりペストの巣窟となり、脱出も生存も困難となっていくのだった。
ひとたび病人が出れば、その家は監視人をつけて封鎖される。
そしてその家の中で感染を繰り返し、やがて一家は使用人もろとも全滅する。
外を歩けば悲鳴や泣き叫ぶ声が、どこからともなく聞こえてくるという。悲劇はもう珍しいことではなくなったのだ。
墓地はすぐにいっぱいになり、そのそばで死体運搬人が倒れている。
生活苦から仕事を選べない人は、感染覚悟で毎日死体を運ぶのだ。その末路である。
人々はなす術もなく、その嵐が通り過ぎるのを待った。
最後に人々を救ったのは、もはや「神」としか思えなかったという。
今よりも医学も科学も発達していない時代だ。状況は悲惨である。
そんな中でペストの蔓延するロンドンから脱出を試みる者、開き直って出歩く者、感染した家族のためにひとり離れて食料を調達する者など、さまざまな人間模様が見て取れる。
様子を語る著者も被害の大きな地域に住んでいながら、なぜか普通に出歩いて近所の様子を観察しているのが不思議であった。
どうやらこの話はノンフィクションではなく、資料と記憶をもとに書いた創作的ルポルタージュとのことである。
故に、語る人物が妙に浮いている感は否めない。その場にいながら実は存在していないような、違和感。
かと言って、ドラマがあるような創作ではない。
ロンドンを脱出した一団の話以外は、数字を中心に様子を語るルポの域だ。
その様子は壮絶ではあるが、壮絶過ぎて現実味がないのである。
どちらかというと「情報」という位置づけだ。
面白いとは言い難いが、興味深いとは思う。
ぽ子のオススメ度 ★★☆☆☆
「ロンドン・ペストの恐怖」 D・デフォー
小学館