団地に引っ越しが決まり、まだ何もないその部屋を見に行った。
5階の角部屋。
日当たりが抜群に良く、感動する。
これまでのアパートは東向きで、昼前にはもう部屋の中は薄暗くなっていたのだ。
キラキラと輝くようなボロ団地に、心は踊った。
しかし、エレベーターのない5階である。
この後スキーにハマり毎週のように行くようになるのだが、荷物運びが地獄であった。
特に帰りは娘ぶー子が眠りこけているので、これもまた荷物化していた。
タイヤ交換も大変であった。
古い、というのも色々とあった。
洗濯機の排水口がないので、洗濯の度に排水ホースを風呂場に渡さなくてはならない。
間抜けな私は2度、これを忘れて水漏れさせたことがあったEE:AE4E6
お風呂もトイレも、床は丸いタイルだ。
そしてとても狭かった。
窓もサッシになっておらず、開け閉めの度にガラガラという音を立てた。
全て和室で洒落っ気も全くなく。
ベランダにはハトが来た。
生き物は好きなので最初のうちは喜んでいたが、そのうち巣を作ってしまった。
これが、毎朝うるさいEE:AEB64
フンやら羽やら不潔な感じもあり、巣立ったらそれ以降は「敵」となってしまった。
ハトは一度巣を作るとそこにまた繰り返し作るようになるのか、その後も何度も巣作りにやってきた。
早い段階で巣を撤去することで卵を産むことはなかったが、もうそれは頻繁で、ウンザリしてしまった。
ベランダにネットを張る。
・・・時々引っかかっていて、色んな意味で泣けた。
こんな感じではあったが、概ね満足はしていた。
日当たりの良さは気分を良くしてくれたし、家賃は安い。
部屋は洋室っぽく自力でリフォームのようなことをした。
それはそれで、楽しかった。
私達はまだ若かったのだ。
デメリットを楽しみに変えることができた。
もう次への引っ越しが近くなっていた頃だったと思うが、3階の住民がおかしくなって怖かったことがある。
男性の一人暮らしで、もともとは家族がいたのか、時々女の子が遊びに来ていたように思う。
挨拶をするぐらいで、全く繫がりはなかった。
それがこうして記憶に残っているのは、異変があったからである。
ある日、彼の部屋のドア一面に、サインペンで落書きがされてるのを見た。
まるでドアを封印するかのように、ドアと壁の境い目に線がたくさん書き殴られていたのである。
またある日は、たまたま窓から外を見ていたら、下にその彼がウロウロしていたのだ。
詳しいことは忘れたが、その足元だったか彼の部屋のドアの前だったかに、線香が束になって焚かれていた。
何だか怖くなってくる。
またある時バス停で見かけた彼は、明らかに挙動がおかしかった。
バス停にいるのだが、バスを待っているのではなさそうだ。
ただただウロウロとしていて、そのウロウロも普通のウロウロではない。
うまく言えないが、「挙動不審」そのものだったのである。
その後引っ越してしまったので、その先は分からずじまいだ。
それまでこんな彼を見たことはなかった。
彼に何があったのかは分からないが、薄気味悪いと思うと共に、気の毒にも思った覚えがある。
彼をこんなにしてしまった何かが、彼の身の上に起こったのかもしれないと。
それはその頃、私にも起こっていた異変と重なっていたからかもしれない。