人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

4年後のTOEIC対策

ライブであった。

良く行くライブバーの、常連さんによる、定例ライブ。

最初のうちは、見たいバンドがある、たまには応援に行きたい、という感じだったのが、今ではどのバンドも面白いのでこの企画には極力行くようになった。

そりゃもう、余すところなく見れるよう、オープンに合わせて出向く。

とは言ってもこの日は、出演サイドであった。出番の前に飲み過ぎる訳にはいかない。

トマトハイで調整しつつ、緊張はほぐれるような酔いに、という難しいコントロールの上、無事演奏を終え、私は安心しきって飲んでいた。

そう、「もうトマト効果が強すぎるんで、水割りにしてください。」と言ったあたりだっただろうか。

ダンナが携帯を片手に私のもとにすっ飛んできた。

「ぶー子から。」

そういって、ダンナの携帯を手渡された。

時に数日前、私は自分の携帯を酔っ払ってなくしていた。だからダンナの方に行ったのだろう。

「LINE送ってるけど返事がないって。」

そりゃそうでしょう、返事どころか見ることすらできないのだ。

私はダンナの携帯を持って、外に出た。

空いたほうの耳を塞いで「もしもし?」と言うと、「あのさぁ、誕生日にLINE送ったんだけどッ。」

この言い方。もはや懐かしい。

彼女が家にいた頃には良く聞いたトーンだ。抑え気味の声なのに、妙に威圧感がある。

「この服、汚れてんだけどッ。」

「起こしてって言ってあったんだけどッ。」

「夜中にうるさかったんだけどッ。」

つまり娘ぶー子は今、怒っている。

とは言ってもちょっと待ってよEE:AE5B1

誕生日には全く連絡をよこさなかったので、私はむしろ寂しい思いをしていたのだ。

かといってこちらから催促するのもおかしいし、まぁ向こうは向こうで楽しくやってるんだろう、母親なんて、もう邪魔な存在なのである・・・、と言い聞かせて、あえて我慢して何も言わなかったのだ。

ちなみに誕生日からはもう、一週間が過ぎていた。

「ええっ??LINEなんて来てないよ!来ないなぁとは思ったけど、そっちはそっちでやってるだろうから邪魔しないようにと思って・・・。」

「既読もついてないし!!」

「だって見てないもん!!」

なんでこんな事になったのかというと、まぁ悪いのは私だ。

まず、マナーモードになっていればリアルタイムで気づくことができない。

後で気づいた場合、2件以上溜まっていると、1件しか気づかないのである。

これはLINEの表示の仕方に問題があるんじゃないか言いたい。

そしてこれは私自身の問題だが、2件以上溜まることなど、ほとんどないのである。

この時もそのパターンだったのだろう。

現物がないのですぐには確かめられなかったが、それでもとりあえずは平謝りしておく。親は娘に弱いのである。

私も寂しかったが、向こうも同じ気持ちだったに違いない。

「でででね、ちょっと今いい??聞いて欲しいんだけど。」

本題はこちらであった。

改まった口調にちょっとした緊張が走る。

すでにライブ演奏の聞こえない場所にいたが、さらに静かな方へ場所を移動する。

「あのさ、大学行ってた時にさ、英文科だったじゃん?で、英語の授業があってさ。」

私は嫌な予感がする時には、会話と同時進行しながら最悪のシナリオを想定する。

授業?今さら何?何か当時やらかした事のカミングアウト→その尻拭いの相談か?授業料とか??

「その時、TOEIC対策の話になって。あれってすごい早いじゃん、問題読むの。」

TOEICとは「国際コミュニケーション英語能力テスト」の事をいい、英語力検定である。

私も一度受けたことがあるが、ぜ~~んぶ英語だ。

英語で問題を出され、答えは英語の4択(25年前形式・笑)。

そしてぶー子の言うように、そのスピードが恐ろしく早い。

私は途中で追いつこうという気力がなくなり、遭難しないようにただページをめくるだけになった(笑)

「で、どうしたらいいかって先生が言うからさ、私が答えたのよ、

もっと早いスピードでじゃんじゃん英語を聞いておけば、本番はゆっくりに聞こえるって。」

EE:AE4E6EE:AE4E6EE:AE4E6EE:AE4E6EE:AE4E6

最初はふざけているのかと思い、「小学生か!」と突っ込もうと思ったのだが、ぶー子は続ける。

「そしたらそれは不正解で、次に答えた子が『単語をたくさん覚えること』って言ったらそれが正解なんだって!ねぇどう思う!?私、間違ってないよね!?」

間違いない、間違いなくぶー子は今本気で怒っているEE:AEB64

何で今なんだよEE:AE5B1てか、どうしたぶー子EE:AE5B1

まぁ実際こういうものに、正解も不正解もない。そういう意味では融通の利かない教師だと思う。その理不尽な思いが今まだこうしてぶー子を苦しめているのだったら、それは不幸だ。

かといって、やはり正解も不正解もないのだ。「ケンカ両成敗」的な収め方をしてしまったが、そんな私も意外と融通の利かない母親なのかもしれない。

まるでたった今起こった出来事のようにひと通り怒りをぶちまけるとぶー子は、「ん、どうも納得いかなくてさ。ずっと気になってたから。」と言って電話を切った。納得したかは分からない。

若い頃のこのような理不尽な思いは、誰しもあることだろう。

一方の立場が上である場合、他方は口を封じられるのが常だ。

私はぶー子をとことん肯定してやるべきだったのかもしれない。

つまらん大人になってしまった。

携帯は、このあと行ったお店で出てきたのだ。

しかしそこでバカ騒ぎをして、ヒンシュクを買ってしまった。

つまらん上に、情けない大人である。