座れば打った腰が痛い、寝れば頭のタンコブが痛い。
両肘は何もしなくても痛いが、スネのアザだけはなぜか平気である。
バンドのミーティングであった。
このように改まってこのメンバーで飲むこと自体が初めてでセンセーショナルだったが、壮大なドラマはむしろその後であった。
朝だ。
一度起きてダンナとも娘ぶー子とも喋っているが、まだ酒が抜けておらず、ほとんど思い出せない。
ただ、大事なものがなくなっていることに気がついた。
バッグだ。
聞けば、家に帰ったときにはすでに持っていなかったそうである。
バッグである。
携帯も財布も入っている。
「ない」では済まない。
あとでぶー子から聞いた話をまとめると、こうだ。
ドアを開けようとガチャガチャいう音がしたから、どうせまた酔っていると思ってぶー子が開けた。
玄関に倒れこんだ私は手ブラである。
バッグはどうしたかと聞いても、「うん」「ない」というばかりで会話が成り立たない。
ぶー子は、最後に行ったお店(PであるEE:AE595)に電話をした。
「確かにバッグは持たせてタクシーに乗せた」とマスター。
呼んだタクシー会社を聞き、すぐにまた電話。
怪しいのはここである。というか、ここしかない。
たった今、Pに呼ばれた奴はどいつじゃ、バッグがない、どうしやがった。
しかし答えは「ない」であり、ラチが開かない。
ここまで聞いて、私は前夜のことを思い出してみた。
見事に思い出せない。
Pを出た時の事も、タクシーを降りた時の事も。
もしかしてタクシーで寝てしまい、お金が払えず運転手に落っことされたか。
しかし問題の運転手は、お金はもらっていると言ったそうだ。
私は財布を出して、お金を払っているのだ。
それをわざわざ車に置いて行くだろうか。
かと言って、降りたのは家の前だ。バッグを落とすほどの距離でもない。
一応探したが、見つからなかった。
タクシーの運転手か、次に乗った客か。
いや、運転手は忘れ物はないか確認しないだろうか。
座席にバッグを残したまま次の客が乗る確率は、低いのではないか。
あぁ、もう、運転手が怪しい。
夜になったらまた電話して、私が直接話をしてその時の様子を聞こう。
カードと携帯を止めなくては。
二日酔いである。自業自得だが、辛い。
財布にはカードばかりではなく、免許証と保険証が入っている。
こればかりはカードのように止めることができないので、早く警察に届けたほうがいいと誰かが言った。思い出せない。二日酔いだがまだ酔っていた。
ひと通り止めるものを止めると、一眠りした。
起きたら私はひらめいてしまった。
携帯のGPSで、今ある場所が分からないだろうか。
分かるのだ。
有料だが調べてくれた。
それによると、その場所は・・・、
世田谷区代田一丁目とのことだ。
絶望的である。
誰かが私の携帯を、恐らくバッグごと、世田谷区代田一丁目に持っていったという事である。
一応そこに近い交番に電話して聞いてみたが、そういう落し物はないとのこと。
もう諦めた方が建設的だ。
あのバッグがなくなって困ることは何か?
オウノウッ、住所の入った免許証と家の鍵がセットになっている!!
最悪、入られてしまう。
鍵の交換だ。
電話で手配。明日来ます、2万円。
警察に届け、家に戻る。
もうできることがない。
いい人が拾ってくれたなら、もう届けてくれているはずである。
そして警察に、それはなかった。
悪い人が持っているということだ。
諦めると言っても、恐ろしい。
二日酔いもあり、すっかり私のテンションは下がりきっていた。
その時、怪しい男が我が家を訪れた・・・。
彼は朝、私のバッグを拾ったのだが、仕事に行くので時間がなくて交番にも行かれなかった。
遅くなってすみません、そう言って、フルセット入った私のバッグを返してくれた。
ええっ!?怪しい人じゃなかったの!?
私もダンナもペコペコと何度も頭を下げた。
お礼をさせて欲しいと言ったのだが、彼はいえいえとんでもない、と言って去っていった。
今度は止めたものをひとつずつ復活させていく。
みなさん、ご迷惑をおかけしましたEE:AE5B1
反省したいのだが、もう繰り返さないという自信がない。
「首からさげるバッグにしなさい」とダンナに言われる。
「首から鍵」をやっと卒業したのに。
ところで、朝方ぶー子がバタバタと動いてくれた訳だが、ダンナが帰らないので彼女は漣まで行ったのである。
しかし店はもう閉まっており、別のコースで家に戻ったらしいのだが、その途中で、スーパーの業者専用駐車場で寝ているダンナを発見。
バッグを枕にして、普通に横になって寝ていたそうな。
見つけてくれたのがぶー子で良かった。EE:AE5B1
しかし実は、昨日はぶー子の友達がうちに泊まっていたのだ。
一部始終を見られているが、すまぬ、ぶー子よ。
不甲斐なし。