しこたま飲んだ夜のこと。
ダンナと駅前の居酒屋で飲み、勢いづいてカラオケに行き、ボヨンボヨンに酔ってバス停に向かっていたのだ。
バス停が見えると、ちょうどバスが来ていた。
逃したくはない。反射的に私達はバスに向かって走り出す。すると、
「急がなくて大丈夫です、まだ一分ほどあります!ゆっくりどうぞ。」というアナウンスがバスから聞こえてきたのだ。
こんなことは初めてである。
ここのバス停は比較的回転良くバスが来るので、こうして待っているバス目がけて走ることはしょっちゅうだった。
そして実際、走る必要もなく乗ってから待つことの方が多かったのだ。それでもこんな風に言ってもらったのは、初めてのことである。
酔っていた私達は感動センサーが脆くなっていて、目的地に着くまで彼のポスピタリティを褒めちぎった。
この気持ちは伝えなくては。あなたのしたことは、人をこんな気持ちにしてくれるのだ。小さな思いやりを、忘れないで欲しい。あなたのやりかたは正しい。そのままでいて欲しい。「バスに乗る」という単なる交通手段が、人と人の触れ合いになる。
見ていると彼は、降りていく乗客に「お疲れ様でした」とひとりひとり声を掛けている。今度は私達の番だ。
「さっきはありがとうございました。」
降りる時にそう言うと、「いえいえ、仲が良くていいですね。お疲れ様でした!」と返ってきた。
別に特別仲が良いような場面などなかったが、まぁ挨拶のようなものだろう。それでも「お疲れ様でした」にプラスαが添えられて、それが私達の御礼への返答となった。
バスを降りてから今度は家に着くまで、私達は彼を褒めたたえ続けた。
言葉の力を知る。
やっぱり、伝えてなんぼだね。
心温まる、週末の夜のこと。