人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

新宿にて。

会場に着くと、そこここに案内の矢印が立てられていた。

大きなビルだが、これなら迷うことはない。矢印は数メートルおきに、そこには案内人も配置されていた。こんなにあっては暇だろうに。困る人がいるとは考えられない。

2回に渡って受付を済ませると、赤いカードを受け取る。これを良く見えるように持って下さい、と言われる。いわゆるパスだ。案内人はこれを見て、こちらへ、とルートを示す。

約3メートルおきに待ち構える案内人の仕事はもはや形式的なもので、ロボットのようにハイこちら、と動くのみであった。

受付からほんの数メートル先のエレベーター乗り場で、赤いカードを渡す。このカードはこの数メートルのために存在していたことを知る。

カードを回収するために一人、エレベーターに案内するために一人。

45階まで、あっという間であった。そんなスピードでこの個室が動いているかと思うと、少し怖い。

ノンストップで到着すると、そこにもやはり大勢の案内人が待ち受けていた。

やっと個室に通されると、若い医師がいくつかの質問を投げかけて来る。

「モデルナですけど、よろしいですか?」

ここに来るまでに同じ質問を2回されている。ファイザーじゃないですよ、という確認かと思うが、まるで「あの悪名高いモデルナですが本当にいいんですか」と念を押されているような気持になる。

いいも悪いも、もうまな板の上の鯉だ。「はい。」私も形式的に答える。

注射はまだこの先だ。この医師は、問診だけのためにいる。

次の個室は、注射だけのためにある部屋だ。「チクッとします。」不思議なもので、この言葉で覚悟が決まる。この歳になっても、注射は怖いものだ。

チクッ。

なぜか刺した場所と全く違う場所が、同時にチクッとした。

何かとてつもなく悪いものを注入されたような気持になり、腕が痺れる。動悸がする。ヤバい。

しかし分かっている。これは私の思い込みから来ているのだ。極度の緊張。落ち着け。

普通は15分の待機時間となっているが、アレルギーがあるので私は30分待ちであった。

イスが並んでいる。皆静かに、スマホをいじっていた。

具合が悪くなったら手を上げてください、とのことだ。正面に座っている女性が、バードウォッチングのように目を凝らしていた。

30分。

決して短い時間ではないが、本を読んでいたのであっという間だった。

「お酒はダメだって。」

待っていたダンナに告げる。

「でもこっちの紙には、『過度のお酒は控えて』になってる。」

ダンナの会社では、ワクチンの付き添いで休みがもらえるのだ。別にワクチンに不安などなかったが、休めるなら休んで、どこかで美味しいものでも食べたいじゃないか。あわよくば・・・・・・。

軽くサワーを2、3杯のつもりであった。

しかし飲み始めたらどうでも良くなってしまった。

念のため強いお酒は避けたが、それで「過度」を「適度」に調整したつもりになる。

変な酔い方をした。

ワクチンのせいかどうかは分からない。なにしろ前日、「過度」の飲酒をしたばかりである。

しかし腕の痛み以外にこれといった副反応もなく、至って普通に過ごしている。

1回目の接種は終わった。

次は一か月後である。