サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」は、短いパターンの繰り返しの曲だが、コーラスの表情が刻々と変わる複雑かつ美しい曲である。
この曲が次の発表会の課題曲に決まり、1ヶ月ほど前に譜面のコピーが配られた。
一番から五番まで、コーラスは「パターンを変えて」繰り返すのだ。合唱の楽譜には繰り返しのマークはつかず、延々五番まで綴られている。
・・・はずのものが、初日は三番と四番が抜けた楽譜であった。
「間に合わなくて~」、楽譜を手書きした指揮者のもっきゅんは、テヘヘと笑った。
恐らく合唱用の楽譜は市販されていないのだろう、彼は自分で音を拾ってハーモニーを組み立てているようである。
まぁこっちだっていきなり楽譜を見て五番まで歌えはしない。抜けた分は次回で問題はない。
ところがその後の2週、私は風邪で練習を休むことになる。
発表会は迫っている。練習に出られないなら、せめて楽譜だけでも欲しい。家で予習がしたい。
なので一度練習に顔だけ出して、楽譜をもらってきたのであった。
だったら早く練習すればいいのに、私はそのまましばらく放置した。
やらなきゃとは思うのだが、ものごとは「やらなきゃ」と思うほどにやりたくなくなるものなのである。
何だか厄介なものをもらったような気持ちで、楽譜を手に取る。チラリ。
あれ??
この色。この楽譜の色。いや、紙の色ではない、音符の色というのか?
角度を変えて色んな方向から見てみる。
これ、原本じゃん!もっきゅんの手書きそのものである。
私が使っていいのかなぁ??まぁでも中身は同じだもんなぁ。くれたんだからいいか。
とは言っても、この後、この楽譜は、まず蛍光ペンでアルトパートをマーキングされ、歌詞を書き込まれ、「柔らかく!」だとか「気合!」だとか「!!!」だとか「💦💦💦」だとか、どんどん汚れていく予定である。
その後に「原本を使う不届き者」などと言われても困る。
一応もっきゅんにメールで確かめたら、「なくて探していた」とのこと。あぶねー!!
かくして楽譜は手付かずのまま、次の練習に行くことになったのだ。・・・別に予習ぐらいならできたのにねぇ・・・。
次の練習で改めてコピーを全部もらい、結局私はそこで初めての通し練習をすることになってしまったのだ。つ、ついていけん。音痴がひとりいるぞ。
私は練習不足を反省し、今度は速やかに製本することにしたのだ。
製本。
絶対にやらなくてはならないことではないが、そのままだとペラペラでページめくりが煩わしいのだ。
各ページをふたつに折っていき、端を貼り付けて本にする。これでページめくりは劇的に楽になる。
そして自分のパートを蛍光ペンでマーキングし、自分のパートの真下に歌詞を書いておく。これで準備完了だ。
しかし結局、製本をしたのは次の練習日の前日だ(笑)そして予習は、当日会場に向かうバスの中であった。
言い訳になってしまうが、この週はバンドのリハも控えており、手が回らなかったのである。
バスの中で楽譜を見て、心の中で歌う。
音を出せないので、正しく歌えているのかどうかは謎である。
それにしても、おかしい。
なんか変なのである。
しかし伴奏も何もなく、見ただけではどこの部分をやっているのかすら分からない。
とにかく遅れをとらないためには、インプットしなくてはならない。
おかしいのはどうせ私の頭だ。正しい行いの人が聞けば、正しく聞こえているはずである。
とんでもない失敗に気づいたのは、バスを降りる直前であった。
ページ、抜けてるやん!6ページの次が9ページに飛んでいた。
もうくっつけちゃったもんね。しょうがない、もう1セットもらって、今日のところは7、8ページだけ独立だ。
製本したコピーの下に、7、8ページをずらして置いておく。
曲は待っちゃくれないからね、6ページ歌ったらすぐこっちに、そしたらまた戻って、「ああっ!!」
思わず声が出てしまった。
9、10ページのあとに、抜けてるはずの7、8ページが登場!!
抜けてたんじゃなくて、入れ違えたのね。
うわー、これ、行って戻って、結構大変だぞ。
結構大変でした・・・。
初めて歌う曲である、そんな複雑なページめくりにまで気が回らん。
今度こそ、家で何度も練習すると誓う。
次の練習は、おとといであった。
ちゃんとしっかり、家で予習はしてきた。
しかし、
楽譜を忘れた(笑)
もうさすがに「くれ」とは言えないので、急いでコピーを取ってくる。
スカボロー・フェア、うちにいっぱいあるよ!