私はまた立ち上がってウロウロし、冷蔵庫を開けて何もないことを確認すると、鍋に直接箸を突っ込んだ。
どうしてこう、集中力がないのでしょう。
AD/HDという行動障害があるらしいが、そのケがあるんじゃなかろうか、私は。
曲をコピーしていた。
セッションでやるかもしれないという曲があり、キーボードパートを譜面に起こしていたのである。
まず、取り掛かるまでが長い。
パソコンを開けば、お得意さんめぐりが始まる、YouYubeを開けば「おすすめ動画」などというものにいとも簡単にひっかかる、挙句に課題曲の動画はなく、仕方ないので上手にコピーしている他人様のバンドのコピーだ。コピーのコピー。
シャーペンの芯が折れるジレンマは「鉛筆がいいですよ」というアドバイスにて解決したが、うちにある鉛筆は2B。ベラ濃い。
楽譜に濃淡でもつけて芸術的に仕上げるならとにかく、今度はこの芯の濃さと軟らかさがストレスである。
そして何よりも、楽譜を書くことがストレスなのだ。
楽譜とは、算数である。
4拍子の中には1拍が4つ、そこに0.5拍とか1・5拍とかを入れて、合計をピッタリ4拍にしなくてはならない。
これはもう、とうの昔に投げている。4拍子の曲が5.5拍子になっていたり、ターンタタがターーン・タタになっていたりなどは珍しいことではない。
今では検算すらしなくなったので、もはや正しい部分の方が少ないのではないかと思われる。
そんなんで役に立つのかと言われれば、こんなんでも役には立つ。
だいたい合ってりゃ、曲は知ってるのだから、書いた本人には分かるのである。
他人に見せられない楽譜だ。身内であるダンナには弾かせてみたいが。
そんなアバウトな楽譜でも、1小節も書くと飽きてしまい、腹が減る。
ストレスは食欲の中枢を壊すのだろうか。手当たり次第に口に突っ込んでいた。
明太子、ご飯、肉団子、チョコレート。
こんなことをしているから、余計に時間がかかるのである。
無駄な時間が積み重なるほどに、次への作業が重くのしかかる。チョコレートに逃げたくもなるじゃないか。
猫も格好の逃げ場である。
別にいつもと変わらない寝姿が、特別可愛らしく見えてくる。
コチョコチョコチョ~EE:AE5BE猫もいい迷惑だ。早く終わることを願っていたことだろう。
その願いは叶った。
もう完コピは投げた。そもそもこんな得体の知れないバンドのコピーである。それを完璧にコピーしてどうする。
しかしとても上手いバンドであった。だからコピーしたのだが。
これで苦行から開放された。
とはいっても、楽譜が出来上がるということは非常に喜ばしいことである。
ないから作ったのである。なかったものを作り上げたのである。
どこにも売ってない楽譜だ。
厳密に言うと今日のはちゃんと市販の楽譜があったが、いい加減なので参考程度にしかならないものだったのである。
そして涙と汗の結晶だ。他人には全く役に立たない代物だが、私には貴重な財産である。
忘れた頃に「あの曲またやろう」と言われ、何度あのしょうもない楽譜があったことに感謝したことか。
能書きはいい。
弾けなくては意味がない。
これは、練習とセットになっているのである。
練習してこよEE:AE5B1