人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

彼と赤いメリー、白いメリー

カウンターに座り、いつも静かにブラッディ・メアリーを飲んでいた「彼」。

そのバーでは時々彼のライブがスクリーンに流れていたが、それと同じ人とは思えないほど穏やかに喋る。

おっとり、と言ったほうがいいかもしれない。

何しろ病気をして少々あちこちに不自由があったのだ。

それでも毎日のように店には現れたようである。

ブルースハープを持ち歩き、気が向くとセッションに加わる事もあった。

「メリーにね、ご飯をあげにね。」

入院先を抜け出して、愛猫メリーにご飯をあげに帰った話を良く聞いた。

白猫メリーと真っ赤な彼のブラッディ・メアリー。

長いこと店に現れないのでみんなとても心配していたが、もう二度と会えなくなった事を知った。

しかし彼の曲は残った。

まるで放送終了時の君が代のように、黙っていても誰かしらが、或いは本人が、ある時は私も、演っていた曲だ。

これからもずっと、歌い継がれていくだろう。

彼は残る。

悲しむことは簡単だ。

強くなりたい。

そしてそれを、彼が私に遺した「強さ」として、これからを共に生きて行きたい。