カウンターに座り、いつも静かにブラッディ・メアリーを飲んでいた「彼」。
そのバーでは時々彼のライブがスクリーンに流れていたが、それと同じ人とは思えないほど穏やかに喋る。
おっとり、と言ったほうがいいかもしれない。
何しろ病気をして少々あちこちに不自由があったのだ。
それでも毎日のように店には現れたようである。
ブルースハープを持ち歩き、気が向くとセッションに加わる事もあった。
「メリーにね、ご飯をあげにね。」
入院先を抜け出して、愛猫メリーにご飯をあげに帰った話を良く聞いた。
白猫メリーと真っ赤な彼のブラッディ・メアリー。
長いこと店に現れないのでみんなとても心配していたが、もう二度と会えなくなった事を知った。
しかし彼の曲は残った。
まるで放送終了時の君が代のように、黙っていても誰かしらが、或いは本人が、ある時は私も、演っていた曲だ。
これからもずっと、歌い継がれていくだろう。
彼は残る。
悲しむことは簡単だ。
強くなりたい。
そしてそれを、彼が私に遺した「強さ」として、これからを共に生きて行きたい。