「何か目標ってありますか?」
唐突ではない。
ちゃんと流れがあっての質問だったが、若き新しい主任・グッティ氏が問う。
私は愕然とした。
私の人生に目標などない事も、それがどんなにつまらない人生かという事も、即座に分かった。
目標などない。
ただ生きているだけである。
私はもっとちゃんと目標を掲げ、それを目指すような人生を送るべきではないのか?
しかし、これが意外と難しい。
努力を要することにはやがて離れていってしまうのが、グータラ人間の性なのである。
かといって簡単に達成できる目標では、目標とはいえない。
強い意思を持てばいいだけだが、それがないのが分かっているから目標を立てにくいのだ。
例えば何かの資格を取るとか、毎日ジョギングして合計何キロを目指すとか、この辺は軒並み無理だ。
甘えるなと言われそうだが、私はそこそこ甘い人生でいいのだ。
時間を取らず、ほどほどの努力で達成できるものなくてはならない。
結果の大きさではない。
要はそこまでの道のりである。
何かに向かって進むことは、生活を充実させるだろう。
どうせなら家事に関することにすれば喜ばれるだろうし、喜ばれればゲーム漬けの後ろめたさが軽減される気がする。
しかし現状家事がはかどらない発端は不眠であり、これを解決しないまま家事のノルマを増やすのは難しい。
そう考えると不眠による時間不足は、多くの目標を阻むことになる。
あぁもうこのままダラダラ過ごすしかないのか。
私は仕事をしながらずっと考えていた。
タイムカードを切った後も、着替えながらずっと考えていた。
時間もかからないし、酷く苦労をしない目標があるじゃないか。
ぽ子よ、
痩せろ。
体重を週に一度、表に書き出すようになってから1年半が経った。
それは減らない代わりにゆっくりと上昇していた。
そりゃそうだろう、全く節制してないのだ。
「痩せる」という目標のもとに始めた事だったが、その行為に慣れ過ぎてしまい、目標を見失っていた。
ただ数字を書くだけなんて、アホくさい習慣である。
豆乳ジュースダイエットも終わっていた。
「良く噛もう」も忘れていた。
腹いっぱい食ったら寝る。
なんて恐ろしい事を繰り返していたのか。
これでは太る一方である。
「グッティさん、決めました。私、3キロ痩せます。」
彼はもっと壮大な目標の話をしていたはずである。
ハハハと笑ったが、私は目標を見つけ、満足である。
帰りに豆乳を買った。