もう何年越しになるだろうか、歯医者通い。
痛がって先に進ませない私が悪いのだが、痛いものは痛いのだ。
遊び半分で痛がっている訳ではない。
通常の治療の前に、助手である先生の奥さんが私の口の中を覗いてチェックをする。
自慢じゃないが、「いいですね。」などと言われたことは、ただの一度もない。
時間がなくて適当にしか磨かないで行く事もあるが、「これで文句はあるまい」と言う程磨いて行っても、必ず難癖をつけられるのだ。
磨き残しを指摘されるのがもはやノーマル、通常のパターンである。
そのたび私は、次までにそこをきちんと磨けるようにしていく。
それなのに、「ここが虫歯になりかかってます」ともう2ヶ所も予備軍を作ってしまった。
これでも努力はしているのだ。
そりゃ飲んだりした晩は、面倒で磨かずにモンダミンのうがいだけで寝ちゃったりするが、私は過去にこんなに真剣に歯磨きに取り組んだ事はなかった。
普通の歯ブラシで磨き、その後細い歯ブラシで磨き、次には糸ようじでこすり、最後に歯間ブラシでしごく。
注意された場所は念入りに、私は奥さんの言うがままに頑張ってきたのだ。
しかしある日、歯を磨いていたら激痛が走った。
キーンと神経を刺激する鋭い痛みであった。
ついに予備軍が立派な成虫に成長したか。
私は次の予約日まで我慢をしてから、とうとう痛い、ムチャクチャ痛い、と訴えた。
ところがこれは虫歯ではなく、知覚過敏とのことであった。
磨きすぎて歯が削れてきているというのだ。
もう涙が出そうである。
磨けと言うから磨いた。
しごけと言うからしごいた。
忠実に守っても虫歯の予備軍は生まれ、頑張れば頑張るほど歯が削れていく。
「歯磨き粉、ナシにしませんか。」
次なる指令はこれであった。
歯磨き粉には研磨剤が入っているので、歯が削れやすいと言うのだ。
何だかヨダレで歯を磨くみたいで抵抗があったが、モンダミンでごまかしていく事にした。
先週は風邪を引いてキャンセルしたので、今日は久しぶりであった。
今回はしっかりフルコースで磨いてから行った。
奥様の下で口を開くと、「ん?」と言って彼女は手を止めた。
ん?・・・って(汗) 初めてのリアクションである。
「ジュースは・・・、飲んだりします?」奥さんが聞く。
ジュース?二日酔いなら・・・と私が答える前に、「いや、ぽ子さんはお酒よねぇ。」と真面目に彼女は言った。
「ここ、見て下さい。」
奥さんが細い棒で歯をカリカリこすった部分は、白い線が入っていた。
「これはジュースなんかをたくさん飲んだりするとこうなっちゃうんですけど・・・。」
私は飲むならジュースではなく、いつもお茶か麦茶である。
しかし、あっ!!
実はこの頃、ワインをサイダーで割って飲んでいた。
私はいつもビールのあとにワインを飲んでいるが、ビールのペースでゴクゴク飲んでしまうので、酒は回るわ翌朝喉にくるわで、割って飲む事にしたのだった。
大体1晩で500のペットボトルを2本。い、1リットルも飲んでいたのか。
しかもゴールデンウィークから飲み続けである。
エナメル質が糖で溶けかかってるそうな。
もう、なんて歯ってヤワなの!!
本当に手が掛かる野郎だ。希少動物か?
みんなそんなに歯を大切にしているか?
そんなにサイダー飲んでないのか?
「先生・・・、ぽ子さん、ワインを何で割ったらいいでしょう?」
奥さんは真面目に先生に聞いていた。
「そりゃワインなんか割らずに飲むのが一番うまいだろう。」
先生はそう答えた。真っ当な答えである。
「いえ、だからそのままじゃ強いから・・・。」
「う~~ん、みず、か。」
そりゃ歯の事を考えれば水でしょうがね、アルコールが入ってればいいってもんでもないですよ。
美味しく飲みたいですよって。
ちなみに歯に一番悪い酒はワインであった。
ジュースのワーストはコーラである。
糖分の少ないワインベースのカクテルを、これから調べるつもりである。
ないようだったら焼酎に切り替えることになるだろう。
せっかくワインの定位置を部屋に作ったのに。
奥さんが「いいですね。」と言ってくれるのはいつになるのだろうか。
そして、この歯医者通いに終わりはあるのだろうか。