一体みんな、歯磨きにはどれぐらい時間をかけているのだろうか。
ぽ子は、特別丁寧でもなく、特別雑でもない程度な歯磨きであった。
5分ほどで、全体を磨く。
一応朝晩と、余裕があれば昼も磨いているが、夜は飲んでしまうと面倒なので磨かない。
普通こんなもんだろうと気にも留めずにやってきたのだが、歯医者に行って、磨き方をチェックされるようになってしまった。
一応、歯医者に行く前には歯は磨いていくのだが、磨き残しが赤く染まる液を塗られると、毎度「ちゃんと磨けてませんよ~。」と注意される。
歯と歯の隣り合わせている部分、内側、歯と歯茎の境い目。
いつもここが赤くなる。
今度こそギャフンと言わせてやろうと丁寧に磨いていくのだが、今日までOKが出た試しがない。
歯ブラシを立ててだとか、軽くこそげるようにだとか、レクチャーも何度も受けた。
それにより私の歯磨きの時間が長くなった。
毎晩早く寝たいと切望しているのに、こんな事に時間を持っていかれるのは悲しいのだが。
それでも毎度、いつもの部分が赤く残る。
「これを使ってみたら?」
これとは、細くて小さい「スポット歯ブラシ」と呼ばれるものだ。
確かにこれだと隅々まで届くのだが、広い面には弱い。
なので、この小さな歯ブラシでこちょこちょ1本の歯を隈なく磨くか、普通の歯ブラシと二本立てにするかになってしまう。
これまでも勧められていたのだが、これ以上歯磨きの負担を増やしたくなかったので使わないで頑張ってきた。
しかしもう限界だ、ぽ子の手には負えぬ。
かくして普通の歯磨きにスポットタイムが加わり、ぽ子の歯磨きタイムはさらに延びた。
そのまま歯医者通いが一度中断したのだが、この10分にも及ぶ長時間の歯磨きは無駄ではなかった。
見るからに歯茎がしまり、健康そうである。
そして先日、歯医者が再開したのだが、私は意気揚々と歯を見せた。
ギャフンと言うだろうとウキウキしていたのだが、助手の奥様は黙って手鏡を私に手渡した。
「ここ、わかります?」
彼女は私の引き締まった歯茎には目もくれず、前歯の裏側の付け根をピンセットで押した。
一応そこも歯茎だが、プニプニと弾力を持った膨らみとなっていた。
「本当はこの付け根には、隙間があるはずなんですよ。」
私の2本の前歯はここで作ってもらったものなのだが、彼女が言うには、2本の前歯の境い目の付け根に隙間ができるように作ってあるらしいのだ。
本来の前歯もそのようになっているらしいのだが、どうやら私の歯茎が腫れているので、隙間がなくなっていると。
「ちょっとこれで・・・。」
彼女は細い、歯間ブラシを持ち出した。
チョトマテッ(汗)
それで隙間、こするんですか!!
「止めて下さいッ!!それだけは止めて下さい!!」
すきっ歯になってしまう。第一、痛そうだ。
「いえいえ、大丈夫ですよ。て言うか、このままじゃダメですよ!」
イヤ!ダメ!の押し問答が続いたが、結局負けた。
分かっている、医者サイドが正しいのだ。私の言い分はただ「イヤ」の一言しかないのだ。
無理矢理入れたが、血が出た。
しかしこのままにしておく訳にはいかないと、奥さんは歯間ブラシか糸ようじの使用を強く勧めたのだが、「何とか磨き方を工夫します」と私は乗り切った。
それから私も色々と磨き方を変えて頑張ってみたが、どうも歯と歯の間に何かが詰まっているような気がしてならない。
私は洗脳されやすいのだ。
磨いても磨いても、この細い歯と歯の間にカスがビッシリ詰まっていると思うといても立ってもいられなくなり、私は薬局で一番細い歯間ブラシをついに買った。
珍しく私は、夜の歯磨きが待ち遠しかった。
新しい歯間ブラシをダンナと娘ぶー子に見せ、こういう物を使って磨いた方がいいと熱く説いた。
しかしだ。
これは、肝心な隙間には入らなかった。
あまりにも細いので、入る前に根元から曲がってしまうのだ。
私のプニプニ歯茎もいけないのかもしれない。
早くしないと歯槽膿漏になって歯が抜けてしまうかもしれない。
私は翌日また同じ薬局に行き、比較的高くて丈夫そうな糸ようじを買って来た。
今度はうまくいった。心から安堵した。
私は歯を磨き、スポット歯ブラシで歯と歯の間と歯茎との境い目を磨き、ノンビリと糸ようじで歯と歯の間をこする。
ホ~~~・・・。何となく、悪いカスが根こそぎ取れていく感じだ。
こうしてぽ子の歯磨きタイムはさらに延びた。
しかし意外な事に、結構ハッピーである。
歯を含めて、健康であると思い込む事は、人を幸せにするのではないだろうか。
ぽ子の自慢の歯ブラシブラザースだ。