あまり蒸し返してもロクな事にならないと思って触れないようにしていたのだが、あの飲み会から二日か経ち、何となく家族とのギクシャクした感じが緩んできたので色々とあの日の話をするようになった。
そして2、3、私の記憶に誤りがあったことが判明した。
何度も主張してくどいと思われるだろうが、とにかく私は悪酔いしないように努力し、比較的パリッとして帰ってきたつもりであった。
駅までみんなと歩き、タクシーに乗り、道を説明し、金を払った。
これまではこんなに簡単な事すらままならないような状態だったのだから、これは快挙である。
そして家に着くとまだ起きていたダンナと娘ぶー子に暖かく迎えられたのだ。
と、思っていた。
が、実は違ったらしい。
どうりで私の記憶では、まるでミュージカルのようにタイミング良く彼らが迎えてくれた訳だ。
あり得ない。
まず、上司アンガからぶー子に「あなたの母上はもう帰っているはずです」というメールが行った。
朝になって携帯を見ると彼らの着歴が散々残っていたので、どうやら返事が無くて心配してぶー子にメールをしたのだろう。
ところが私は帰っていない。
どうした事かと玄関のモニターを覗くと、怪しい人影が玄関前でしゃがみこんでいたと。
それが私だ。
全く覚えていない。
いつからだとか何でだとかは全くもって不明。
まぁ酔っ払いなんてそんなもんだが。
今日会社に行き、私が間違えて着て帰った上着はさとちゃんの物だと分かった。
私は消去法で課長だと思っていたのだが、先に聞いた課長は「・・・って、僕がぽ子さんの服って、あり得ないでしょう。」と、大笑いした。身長180センチを越えるロングトールサリーである。
そうか。
課長も相当酔ってたのかと思いたかったが。
で、さとちゃんである。
彼女のことは以前記事にしたが、まぁ底抜けにオッチョコチョイで天然ボケなので、妙に納得してしまった。
それにしても私はぶー子の服だったので違いが分からなかったが、さすがはさとちゃん、自分の上着が入れ替わっても気付かなかった。
と言うか、気付いていたのにそこまでだったのだ。
「そういえばいやに袖が短いなぁって思ったんですよね。」
ですよね、以上。それがさとちゃんなのである。
しかしさとちゃんの上着はあの時、さとちゃんのバッグに入っていたそうだ。
というと私は、さとちゃんのバッグから勝手にあの上着を出して着た事になる。
私はそこにあった自分のらしいのを着てきたつもりである。残ってたやつだ。
私の言い分としてはさとちゃんが先に私の上着を着てたのだが、こうなるとそれも怪しいな。
上着はカタがついたが、実はもうひとつ問題が残っていた。
ぶー子のストールである。
これも上着と一緒に彼女から借りたのだが、どうやら、ない。
たかが紙袋を忘れて来ただけであれだけ激怒したのだ。「ない」では済まされないのは明らかだ。
あってくれ。
アンガの家にあってくれ。
「なかったです。」
目の前が真っ暗になった。
金で済ませるのは大人の悪いくせだが、もう弁償するより他は無いだろう。
いくらだ?
大抵は千円ぐらいのものを買っているようだが、時々高いのを買うから、あぁ恐ろしい。
「近いうちに2、3千円もらえるかもよ。」
軽い気持ちでぶー子に言ったら、なんでどうしてと食らいついて来た。
言いたくないが、もう時間の問題である。
その前に最後の望みを賭けて、ぶー子の部屋を見に行った。
そしてそれは呆気なくそこにあった。
いつ誰がそれをそこに、と聞いても、ぶー子は知らぬ存ぜぬの一点張りだ。
こうなると泥酔してたのはお前じゃないのかと言いたくなるが、まぁきっと私が持ち帰ったのを見つけて無意識に持ってったのだろう。
ちなみにそのストールの値段は300円であった。
危ないところだった。
まぁ飲み過ぎていい事など、何もない。
それでも飲まずにはいられないのが酒だ。
できることは実績を作る、「私は飲んでもこんなに大丈夫なんですよ」という実績を作るしかないだろう。
これからも挑戦していこうと思う。
チャンスがあるかどうかはわからないが。