今週のお題「手土産」
私がまだ子供だった頃。
父は結構お土産を買って来てくれたように思う。
何しろ酒飲みだ。仕事が終われば飲んで帰って来るか帰って来ないのか、あまり一緒に晩ご飯を食べた記憶がない。
その代わり、帰ってくればお土産があることが多かったのだ。
ねだって買って来てもらったこともある。気まぐれに買って来たものもある。
指しゃぶりをする洋風のお人形。
オルゴールのついた木の宝石箱。
見た目に寄らず案外センスはいいので、どちらも気に入っていた。
ところが、ぺったら猫ちゃんよ。
ある晩、珍しく帰って来た父は、大きな袋に入ったぬいぐるみの詰め合わせを持って帰って来たのだ。
駅の構内で売っていたから買って来た、というようなことを言っていた。
どんなものが入っていたか、もう思い出せない。が、ひとつ。
猫だ。いや、多分、猫らしい。
60センチほどもありそうな大物だが、そう感じさせなかったのはそれがペッチャンコだったからか。
一応パジャマ入れ、となっていて、首から下は、チャックのついた袋状の胴体がぶら下がっていた。
そしてぬいぐるみの美醜を決定づける顔は、5センチほどの厚みがあるとはいえ、完全に平面なのである。そして、可愛くない。その猫らしきものは、赤塚不二夫あたりが描いたような、間抜け面だったのである。しかも、全体の3分の1ほどを占める大顔面であり、青かった。
さすがに父もなんだこれはと思ったのか、「この猫はぺっちゃんこだな!ぺったら猫ちゃんだ。」そう命名し、ガハハと笑った。
私もこの猫の扱いに困ってしまった。ぬいぐるみでありながら、可愛くないもの。
しかし子供心にこの猫がどこか哀れで、パジャマ入れとして全うさせた記憶がある。他のぬいぐるみを思い出せないぐらい、案外私のそばにいたようだ。
家庭を顧みないタイプの父だと思っていたが、こうして思い返してみると子煩悩な一面もあったんだなと知る。
未だに遊びに行くと、あれこれ持ち帰らせたがるところがあったりして、いつまでも父親であった。