謎の台湾人。ヤクザに財界人、政治家。
果たして依頼人の意に添わなかった者は、殺された。
ハードボイルド系か。あまり得意じゃないが、と読み進めていたが、物語の核は、終戦間近に沈められた日本の豪華客船「弥勒丸」であった。
もともと弥勒丸は日本とサンフランシスコを結ぶ客船として作られたものが、戦時下で病院船として稼働していた。
病院船はジュネーブ条約で航海の安全が保障されていたにも関わらず、アメリカの攻撃で沈没したのである。
この船をどうにか引き上げたい、と願い出たのが、台湾の宋 英明。実はこの船には、旧日本軍の金塊が大量に積載されていたという。
しかし簡単なことではない。資金、技術、人材。
依頼されたのは、消費者金融会社社長の軽部と専務の日比野。宋は、100億を融資して欲しいと言った。
企業舎弟である彼らにその力はないが、「親分」が動けば話は違う。
こうして弥勒丸のために、止まった時が動き出した・・・。
軽部や日比野が、弥勒丸を通して過去を紐解いていく。弥勒丸が沈むことはもう、分かっているのだ。それは常にどこか切ない響きがある。
そこにはいくつものドラマがあった。
弥勒丸への密航に失敗したロシア人ターニャ。
弥勒丸の船長としての誇りを忘れない、森田。
軍の命令と自分の良心との間で苦しむ、堀少佐。
いくらも訓練しないまま乗船した、留次とサブ。
シンガポールで「積荷」を手配した小笠原は、存命。そしてこの引き上げに関わろうとしている。
なぜ、金塊は弥勒丸に載せられたのか。
なぜ、病院船である弥勒丸が攻撃されたのか。
第2次世界大戦における日本の立ち位置を分かりやすく盛り込んでくれたので、ちょっとした勉強にもなった。
侵略だったのか、侵攻だったのか。
軍人、軍属の本音が垣間見れたのも興味深かった。
話は現在と過去を行き来しながら進んでいく。
ついに弥勒丸が「最初の攻撃」を受けたが・・・。
下巻へ続く。
ぽ子のオススメ度 ★★★★☆
「シェエラザード(上)」 浅田次郎
講談社文庫