いよいよ本格的に夏らしくなってきた。洗濯物を干すのも、死に物狂いだ。
直射日光が当たるのと長袖を着るのと、どっちが暑いんだろうか。紫外線はシミの原因になるなどと言うが、もう今さらである。・・・と思いつつも最近やっと、ラッシュガードなどと言うものを羽織るようになった。どっちにしろ、暑い。
そんな中、頭より高い位置にある物干しに向かい、太陽の方を向いて洗濯物を干していた。
「!!」
危うく悲鳴が出るところだったが、辛うじてこらえた。逃げる方が先だったからである。突然のことで何も考える暇がなかった。立てかけてあった収納ケースの鉄製の蓋を、蹴っ飛ばす。
一瞬のことだった。それは突然現れて、突然消えた。何かが飛んできたのである。
低空で私の足元に向かってバサバサと向かって来て、逃げて振り向いた時にはもういなくなっていた。
何だったんだ、あれは一体。茶色の飛行物体。恐らくそれは、巨大な蛾か小鳥ちゃんと思われた。高くは飛べないようで、恐らくかなり弱っている。
しかしそれももう、消えたのだ。あぁビックリした。再び洗濯物を干していると、今度は逆方向から同じようにこちらに向かって来たのでぶったまげた。
急いで部屋の中に逃げたが、それっきりである。今度も一瞬だった。正体は分からない。
この調子だと、ベランダの柵を越えることはできないだろう。弱っているのなら、この暑さだ。逃げ場のないこのベランダで、死ぬ確率は高い。
言いましても、どうしたら?!
何だか正体が分からないものを積極的に探すのは怖い。小鳥ちゃんなら助けたいが、蛾だったら手も足も出ないというところだ。
もっと正直に言うと、小鳥ちゃんならこの手でそっと救い出してあげたいが、蛾だったら速攻逃げる。
しばらく部屋の中から見ていたが、出て来る気配はない。時間を置いてから続きを干しに行くも、とうとう姿を現さなかったのだ。
あれは何だったんだろう?何となくだが、どちらかというと蛾のような気がしている。何となく、だ。見えた感じで。
小鳥ちゃんであって欲しいが、恐らくお亡くなりになったであろうご遺体がエアコンの室外機の下などにおられた場合、この暑さで起こる変化が怖い。
さりとて積極的に手を突っ込んで「それ」と対峙する勇気もない。
こうなると、どうか蛾であって欲しい。何となくこっちの方が水分が少なそうだ。虫が「腐る」というイメージができない。どうか後腐れなく消えて行ってくれ。
次の変化が起こるまでは、忘れていようと思う。
このまま季節が変わりますよう。もしくは愛らしい小鳥ちゃんが「ピヨ」と現れますよう。