「あ・・・。」
反射的にゾクッとする。この曲。
エルがお世話になっていた動物病院の、電話の保留音と同じ曲だった。
クラシックの曲だ。子守歌のような。
その時私は、ホームセンターのエレベーターに乗っていた。突然のことに、心が騒ぐ。
エルは生まれたばかりのところを保護した子だ。
大病をし、障害もあり、何度も病院にはお世話になった。
しょっちゅう呼吸困難を起こしては、電話して指示を仰いだものだ。電話の保留音も良く聞いた。
あの時の思いが、曲にしっかり刻み込まれている。
有難いことに、今は元気だ。死線をさまよったこの子も、もう15歳になった。曲を聞きながら、あんな頃もあったなぁと思い返す。
今は、生きていてくれるからいい。
この曲を、エル亡き後に聞きたくはないものだ。
今の世の中には音が溢れ、容赦がない。望まないものが耳に入ってくることは避けられないのである。
いい思い出を、できるだけたくさん、色んな音に結び付けておきたい。