「私ね、あれから結構辛かったんだよ。」
キョウコが夢に出てきて言った。
顔は笑っていたけど、これはチクリと私の胸に刺さる。
夢だ。
でも昔、この言葉を私は実際にキョウコから聞いていた。
私は1年で高校を辞めている。遊び呆けて通えなくなったのだ。
自業自得だが、納得はしている。自分で選んだ道だ。学校の方も、チャンスはくれた。それを生かさなかったのは自分である。
高校生活と言う社会は案外ドライで辛辣なもので、一日休むともうついて行かれなくなる。
勉強もそうだが、私が堪えたのは友人関係の方だ。
休んでいる間に起ったことが分からず、会話について行かれないのである。
誰もいちいち解説なんかしない。みんなは昨日の続きをやっているだけだ。私が遭難していることになど、気づきもしない。
挽回するためには辛抱して登校するしかないが、私にはできなかった。
同じ場所にいながら、自分だけが遠い感覚。酒鬼薔薇聖斗が言った「透明な存在」。
これが私には心底キツかった。
そもそもフラフラと夜な夜な遊びまわっている自分と、地に足付けて生活しているみんなとは、もう接点がなくなっていた。
分かち合えるものもなく、勉強もやる気がなく、誰にも期待されない、心配もされないような場所から逃げるように私は消えたのだった。
最後の日、私は誰もいなくなった放課後の教室に荷物を取りに行った。
机を見るとサインペンで、「ぽ子ちゃん、どうしちゃったの?学校辞めちゃうの?」と書かれていた。
もっと早く、もっとたくさん、そして直接言ってくれれば何かが変わっていたかもしれない。
甘えでしかないが。
そう、あの頃の私は色んなことに甘えていて、満たされず、勝手に堕ちて行ったのだ。
自業自得だ。
一番仲の良かったキョウコは、生活態度の悪い私達のグループの中でもしっかりした子であった。いいこと悪いことのボーダーをしっかり持ち、流されないよう良く自分を戒めていた。
正直で、思いやりがあり、何でもハッキリ言ってくれた。
毎日毎日、良く語り合った。たくさん夢を描いた。
彼女といれば、私はもっと高みを目指せただろうに。
意識しなくとも二人で向上していく力が自然に生まれるような関係だったのだ。その時は気づかなかったが。
キョウコ。
そんなキョウコを置いて、私は学校を辞めた。
「私ね、あれから結構辛かったんだよ。」
学校を辞めて1年ほど経った頃か。久しぶりに会ったキョウコはそう言った。
「一番仲の良かったぽ子がいなくなっちゃって、居場所がなくて大変だった。」
私には返す言葉がなかった。
キョウコも「透明な存在」にならないよう、あのドライな世界で必死だったのだ。
そんな思いをさせたのは私だ。自業自得とは違う。
私はまだブラブラしており、キョウコとは昔のように通じ合える話題はなくなっていた。
これがキョウコと会った最後である。
胸に刺さる言葉を、二度聞いた。