受験生の定義とは、何だろう?
専門学校でもAO入試でも受験になるのだろうか?
進学を希望した時点で受験生となるのなら、娘ぶー子は受験生である。
しかし、ハッキリ言って何を希望しているのか、良くわからない。
親としてはハラハラさせられるばかりである。
もう夏休みではないか。
受験生と言ったら夏期講習なんか行って頑張るものじゃないのか??
実はぶー子が3年に進級したときに、「アンタのような勉強嫌いは大学に行くべきではない」と言って、ぶー子の進学の選択肢から大学を外させた。
この2年だって、ここまで来るのに本当に苦労したのだ。
「中抜け」と言って授業をサボる、遅刻・早退し放題、試験中だろうがカラオケで遊んで来る、結果ひどい成績を何度も取って来たが、本人はまるで気にする様子はない。
大体クラスの平均点が、教科によっては20点台だったりすることも珍しくないのだ。
10点とって赤点免れた、なんて事もあり得る。
こんな環境で緊張感を持て、勉強をしろ、という言葉は何の意味も持たない。
とにかく留年しないように、しまいには学校を辞めないように、そう願うぐらいしかできなくなった。
まぁ悪いことばかりではなかったが。
クソ真面目にやってきた過去から解放され、時間をかけて彼女なりの価値観を築いたことだろう。
親としては忍耐の2年だったが、無駄だとは思っていない。
これが本来のぶー子だったのだ。
で、私も見限ったのだ。
あなたにはお勉強は無理ですね。
遊ぶために大学へ行かせる気持ちはない。
そこで提案したのが専門学校だ。
好きな分野だけ学んで、手に職をつけるといいんじゃないか。
一方的に大学の選択をシャットアウトされた形になったので、仕方なくぶー子は専門学校の資料を集め出した。
あっと言う間に我が家のリビングは、ダイレクトメールの山となった。
毎日毎日、数通の大きなダイレクトメールが届く。
こう毎日届くと、しまいには目も通さなくなる。
結果、ダイレクトメールはどんどんたまって行く。
何とかしろと怒ると、ぶー子は見もしないでほとんど捨ててしまった。
ダイレクトメールに関しては今もそれを繰り返している。
横を見るとソファの上にハガキが2通、今朝捨てた大きな冊子が1つ。
これらの怒涛のような専門学校の誘いに乗り、何校か見学に行ってきたようだが、中には「ミュージシャン養成所」もあり、ぽ子は萎える。
以前もボーカル養成所に進むと言って、ケンカになった事がある。
驚く事に彼女は、このような学校に入ることがミュージシャンになる正当な手段だと思っていた。
才能ない、努力もしないならやめてしまえ。
才能ないとは何だ、コノヤロー!!
ほほ~、こうして字にしてみると、真っ当な親子喧嘩である。
そのうちぶー子は「大学に行きたいんだけど。」とケロッとして言い出した。
へ??今から??
まぁ自分からぜひ行きたいという気持ちになったのなら、悪い話ではない。
で、どこか行きたい大学があるのか??
彼女が誇らしげに言ったその大学を、私は知らなかった。
「何でそこを選んだの?」と聞くと、「校舎がすげーんだよ!!」と本気で言った。
校舎がすげーんだよ!!・・・校舎がすげーんだよ!!・・・。
「・・・でそこで何を勉強するの?」
「何があるのかな?」
「・・・・・。」
1回目の話はここで終わった。
その後私はその大学をネットで調べたが、学部は経済学部、法学部、文学部などである。
ハッキリ言って文学部より他に選ぶ余地はない。
さらに文学部を専攻の方まで進んで調べてみると、例えば「若者言葉の「うざったい」を「うざい」や「うっとい」という地域的な違いはどうしておこるのかという全国的な若者言葉の分布を調べたりしています。」などという紹介があり、これは絶対にぶー子には無理だと悟った。
私はそれをぶー子に言った。
何を勉強したいか考えるのが先ではないか。
しかしぶー子はこう答えた。
「私が行きたいのは心理学科だ。」
ああ!?
一応アンタも調べたのね?
しかし心理学に興味があるなどとは、これまで聞いた事もない。
実は私も心理学を学びたいと思った事があるのだが、職につくまでそれはそれは長い道のりで、誰もがおいそれと出来るものではなかった。
ましてや文学よりももっとぶー子には馴染みがなく、複雑で難解だろう。
フロイト、知ってるか??
2回目の話はここで険悪なムードで終わる。
3回目は呆気なかった。
「で、場所はどこなの?」
「知らない。」
・・・・・・・。涙が出そうだ。
調べてみたら神奈川で、ここからははるか遠い場所であった。
それでこの大学の話は消えた。
やりたい事がわからない人間に「職業にしたいものを今決めろ」というのは、難しい話である。
しかし気の毒だが、時は待ってくれないのだ。
これからも、決心がつかないまま決断を迫られる場面は何度もあるだろう。
要は、後悔しないような未来を作っていくしかないのだ。
ぶー子はガラステーブルに足を広げて乗せ、ふんぞりかえって携帯をいじっている。
覗いてみると、ゲームであった。
ピッチャーがこっちに向かって投げてくる玉を打つのである。
・・・トホホ。
人生の分岐点で今、ぶー子は携帯を握り締めている。
がんばれ、ぶー子!打て!!
・・・ではない。
その携帯を学校案内に持ち変えるのだ。
がんばってくれ~~~!!