犬のミツコがうちに来ることが決まると、娘たちと一緒にペットショップに向かったのだ。
揃えなくてはならないものが、たくさんある。
遠足のおやつのような、楽しい買い出しだ。
これ、どう?これもどう?
カゴの中身はどんどん増えていく。
「おもちゃも買ってあげよう。」
犬のおもちゃ売り場に行ってみたが、・・・無言。
何がいいのか、分からないのである。一体犬は、何をどうやって遊ぶのか。
売り場にあるものを見ても、全く意味不明だ。
その多くはぬいぐるみか紐のようなもので、これで遊んでいる姿が目に浮かばない。
押すと音が鳴るものも多く、犬の謎は深まるばかりであった。
どれも気が進まずにいると、「知育玩具」というものが目に付いたのだ。
これらは一様に変わった形をしていて、いかにも「知育」という感じだ。
どう知育なのかというと、中におやつを仕込み、「工夫すれば」出せるような仕組みになっているという。
「へ~、これ、いいんじゃない?」
使い方も見ずに、適当に1個買って帰ったのであった。それが、これ。
穴の中から、おやつを入れる。
「工夫すれば」、出てくるらしい。
・・・というので、穴の中にしこたまおやつを入れておいた。
たくさん食べられるように、パンパンになるまで入れた。
数日経って気が付いたが、どうやらみっちゃんは見向きもしなかった。
中のおやつが減った気配もないし、遊んでいるところもみたことがない。それはいつも、同じ場所にあった。
いい加減、中のおやつの鮮度がヤバくないか?
ケージから出し、役立たずのそいつを見て、実は自分が役立たずだと反省した。
だってこれ、私にもおやつの出し方が分からないのだ。いきなりそんなものをケージに置かれたって、ミツコとて無関心でも然るべきである。
遅ればせながら、ネットで使い方を調べてみた。
素材はゴムなので、振ればグネグネと曲がるようになっている。ブンブン振ると、中からおやつが飛び出してくるということだ。この知育玩具に必要な「工夫」は、「くわえて振る」ということなのだろう。
しかしだ。「振れば出る」ということを知らなければ、振りはしない。その最初の1回は、どうやったら生まれるのだろうか。
私が生んでやろう。目の前で振って見せる。おやつが出てくる。へ~、そうやるとそこからおやつが。ミツコ、学習。となれば良し。
その前に、この古いおやつを取り出さないと。
まず振ってみたが、ビクともしない。パンパンに詰めたからな。ほじくって取り出すか。
ところがこの穴の入り口に爪があり、出にくいようになっている。
こ、これ、どうやったら出せるん!?
私は力の限り振った。パンパンなのである、出る訳がない。どうしたら・・・。私の知能の低さを知る。
考えに考えて、爪楊枝を持ってきたのだ。これで爪を押さえたら、穴がそのぶん広くなるんじゃないか。
しかし穴が広がっても、今度は楊枝が邪魔で狭くなる。
角度だ。楊枝の角度を考えれば、爪を押さえても出口を広くすることができる。
犬の知育玩具とのことだが、これではぽ子の知育玩具、いや教材と言ってもいい。楽しむ要素などなく、私は真面目に取り組んだのだ。
時間をかけて、やっと全ての固くなったおやつを取り出すことができた。
さて、今度はおやつを小さくちぎって簡単に出るようにしたのだ。
それをミツコの前でブンブン振ってみたが、・・・全然出てこなかった。
どうやらこれは犬用ではなく、飼い主用らしい。