ボウイのライブは、バイトが決まった翌日であった。
1階席の18列目。5万というには微妙な席で、メンバーは米粒だ。
録音してやろうと小型ラジカセを下着の中に忍ばせて入ったのだが、自分たちの声と手拍子しか入っていなかった(笑)
はかない一夜であった。
そして私はコンビニのバイトが始まった。
夜は学校があるので、朝9時~夕方4時。
若い店長がものすごく嫌なヤローで、口が悪く、いちいち嫌味を言い、ネチネチと絡んでくる。
ある日頭に来て言い返したら態度が急変、ごめんなさい悪かった、と言って、その後はとっても優しくなった。
それからはプライベートの相談などするほど仲良くなってしまったのだ。
まぁバイト仲間では色んな人がいたが、そこそこ楽しくやっていた。
しかしバイトと学校で、一気に忙しくなった。
あんなに寝ていた日があったのが嘘のような、寝不足の毎日である。
男友達のBが、この町を去った。
大げさな言い方のようだが、それほどの重みがあった。
あんなにたくさん一緒に遊んだのに、色々悩んでここを離れ、この町を捨てることにしたと言う。
Oはどんどん夜の世界に染まり始めていた。
相変わらず良く遊びに来てはくれたが、知らない世界へと離れていく予感がした。
私は親の意向で行きたくもない学校へ行き、コンビニでバイトをしている。
私のしたいことは何なのか。
私も自由になりたい。つまらない人間になりたくない。BやOのような勇気が欲しい。
しかし彼らとの決定的な違いはここであった。
私は所詮小さな人間だったのである。
自分から道を拓けるような、強い人間ではなかった。
この頃、人間関係にもちょっと疲れていた。
遊び仲間には、人を馬鹿にして笑いをとるようなタイプがいた。
私など、いいターゲットであった。
みんな楽しんでるんだからいいじゃないか。
私はピエロを買って出ていたが、そりゃたまにはまじめに話したいこともある。
それすら笑いにされるというストレスと、今のこの関係を崩したくないという気持ちの板挟みになっていた。
ある日Oが、新しい職場でできたスズキという友達を連れてきた。
「コイツ馬鹿だから、何言ってもいいから。」Oはそう言ってヒヒヒと笑った。
確かにちょっとネジが1本抜けたような感じの子で、意思の疎通が普通にはいかない。
それでも純朴で気持ちのいい子であった。だからOはスズキが好きなのである。
Oはスズキをケチョンケチョンにいじり倒し、楽しそうにしていた。
するとスズキはニコニコ笑いながらこう言ったのである。
「楽しけりゃいいんだよ、俺なんて。バカだバカだって言われるけどさ。」
一瞬凍りついたような間があり、「ぽ子みてぇなこと言ってるな。」とOが真面目に言った。
ムチャクチャ悲しい気持ちになった。
「お前、手持ちの絵の具で満足するなよ。」
Oはそう言った。
満足しようとするから、私は苦しかったのかもしれない。