「・・・で、今度の発表会は、アンジェリカをやろうかと。」
合唱団の指揮者であり、代表でもあるもっきゅんが言った。
アンジェリカとは、1時間ほどで完結するオペラとのことだが、もちろん私はそのオペラを知らない。
「昔あるところにね、・・・。」そしてもっきゅんは、かいつまんでそのストーリーを教えてくれた。
昔、アンジェリカという高貴な女性が庭師と恋に落ち、子供を身ごもった。
その恋も引き裂かれ、子供も奪われ、アンジェリカは修道院送りとなる。物語は修道院での日々から始まる。
ただただ毎日、子供を案じているアンジェリカ。
そんな彼女のもとに、叔母が現れる。
用件は財産を放棄しろということだったが、その時に、子供は病気で死んだことを知る。
悲しみに暮れるアンジェリカは、毒薬を飲んで子供の後を追うのだが・・・、
「で?で??」
「いまわの際に、マリアさまに祈る訳よ。」
「そしたらそしたら??」
「アンジェリカがこと切れるその時、、マリアさまが子供を連れて現れるのよ~~!」
「ええっ!?」
「僕もう、このシーンは泣けて泣けて・・・、マリアさまがね、こうして・・・。」
「ちょっと待って!?マリア落ち!?そんな、何でもアリじゃ・・・。」
「いや、そう言っちゃそうですけどね、でも、ここが感動なんですよ、もう泣けますよっ!!」
ガーン。
庭師に会いに修道院を出る訳ではない。
復讐を企てる訳でもない。
物語と言うにはあまりにも起伏がなさ過ぎる。
しかも「泣ける」って・・・。
もっきゅんが純粋なのか、私が汚れきってしまったのか、私は呆気にとられて彼を見るしかできなかった。
そして今、私はCDを繰り返し聴いて曲を覚えている。
時間さえあれば流すようにしてるうちに、少しずつ曲も覚えてきた。
しかしイタリア語のオペラである。言葉が分からない分、想像力を働かせて聴かざるを得ない。
かのアンジェリカが倒れる場面は、「ヨヨヨヨヨ」と叫ぶので分かる。
後ろからは、天使の合唱が聞こえている。
可哀想なアンジェリカ。
しかし、死んでやっと子供に会えるのだ・・・。
涙なしで歌えるだろうか。
これが私の今の心境である。