そして娘ぶー子が帰ってきた。夜、11時頃である。私は相変わらず、座り込んで庭を見ていた。
「・・・ぶー子に言った方がいいかなぁ・・・。」ダンナが弱々しく言う。
脱走したミは、ぶー子が一番可愛がっている猫ある。
できればぶー子が帰る前に捕まえたかったが、ヤバいことになってきたぞ。
ダンナが階段を上り、ぶー子の部屋をノックする音が聞こえる。
聞き取れなかったが、ぶー子は早口で何か言い、やがてドドドと音を立てて階段を駆け抜け、外に出て行った。
「ミ、ミ、ミ!!」パンパンパンッと手を叩く音が聞こえてきた。いつもミを呼ぶ時の合図である。
「ミ!ミ!」何度も繰り返す。
ミもぶー子に良く懐いていたのだ。こんな風に大きな声で呼んでもらえるのは有難いが、もうダンナが散々探した後である。
ダンナは姉妹猫のラを連れ出して、鳴き声を聞かせて歩き回ったのだ。そう簡単には見つかるまい。
ダンナもぶー子の後を追って出る。私は庭を見ている。ぶー子のミを呼ぶ声が聞こえる。
ふと気づいたのだが、ぶー子の声は、全然動いていない。もしかして、ミはそこにいるのか??
家を出ると、ぶー子が「シーッ」と人差し指を立ててこっちを見た。
ここにいたと。
しかし近づいたら逃げてしまったらしい。
ご近所さんちの庭に入ってしまったが、その家の車はなく、家は真っ暗だ。
そっとお邪魔したが、暗い上に物が多くて何も見えない。
とにかくミはひどく警戒しているようだから、私は家に戻って「我が家の物音」を出す役に回った。
テレビをつけ、網戸を引っかいたり、ラを鳴かせたりする。
そのまま動きがないので、また家を出てみる。しかしこちらには、大きな動きがあったようだ。
ミは斜め向かいの「とよだあべ家」の庭に回ったらしい。
庭に出入りできるルートは2ヶ所しかなく、囲っているフェンスが猫には抜けられないことは、エルを見て分かっていた。これは両側から追い詰めれば、大きなチャンスである。
「とよだあべ」さんに事情を話し、庭に入れてもらう。
こっちからは私が、向こうからはぶー子が。
追えば逃げるのだ。そーっと、そーっと、ゆっくりゆっくり。
「ミ、ミ、ミ。」
暗い向こう側から、ぶー子の声が近づいてくる。おっ、ミ、発見。
ちょうど私とぶー子の真ん中あたりでうずくまっていた。
それにしても綺麗な庭だな(笑)
ウチもいつ何時、誰が入るか分からんから、もうちょっと片付けないとである。
ここでミを無事、捕まえることができたのだった。
まるでPKのように、ミがどっちに走り抜けても捕まえられるよう、一点に集中した。
しかしミは暴れることもなく、あっさりとぶー子の腕の中に入ったのである。
こんなに早く、戻ってくるとは思わなかったのだ。
ミのいない明日からの生活を思うと非常に気が重かったが、本当に良かった。
バンドや合唱や酒や映画や、そういった日常を楽しめるのも、家族がみんな元気で揃っているからなのである。
「変わらぬ日常」に感謝することを忘れないようにしたい。