自転車で5分の病院に、行って帰って2時間半である。良くあることなのかもしれないが。
しかし釈然としないのはむしろ、あの医者である。
不眠の症状があまりに辛いのでとうとう病院へ行ったが、もとより治そうなどという気はなかった。
私なりにやれることはやったのだ、こういうメンタルな問題を根本から治すことは難しいのである。
薬さえ出してもらえればいい、そんなつもりで出向いたが、まぁ本当に薬を出してくれただけであった。
それでも薬が効果を発揮したので、不満はない。
できるだけ長く付き合っていけるよう、ちびりちびり飲んでいる。
ちびりちびり飲んでいるので薬はそう簡単になくならないが、半年も経つと在庫が乏しくなり、急に不安になってくるのだ。
あれがないと眠れない、あれがないと新聞屋のバイクの音を聞き、カラスの鳴き声を聞き、朝日が昇るのを指をくわえて見なくてはならないのである。
ほとんど恐怖だ。
今日、慌ててまた病院に行ってきたのだ。
今回もちゃんと平均待ち時間の90分で名前を呼ばれ、診察室に入る。
私と大して歳の変わらなさそうな男性の医者だ。
私は彼が言ったセリフをすべて覚えている。
①いつから調子を崩してたんだったっけ?
②再診は1月だね。
③薬は効いてる?
④ひどく気分が落ち込んで治らないことはある?
⑤じゃあまたこの薬、出しておくね。
以上。
④など、私がここに来た理由すら遭難しているんじゃないかと思わせる質問だが、もうそれもいい。
薬さえもらえればいいのである。私もあんたを医者と見なしていない。
単なる薬局の窓口である。早くて助かるぐらいだ。
速やかに、できるだけたくさん出してくれればいい。私も余計な質問や相談はしない。
しかし腹が立つのは、途中で携帯の電話に出たことである。
「ちょっと失礼」も何もない、普通に電話に出て喋り、終われば何事もなかったようにこちらに向き直った。まるで後で編集してくれればいい、みたいな態度である。
そもそも沈黙も長く、「俺はこいつに何をしてたんだっけ?」というムードが漂っていた。
簡単に言うと、適当なのである。
まぁもうそれもいいとする。ブツはもらえた。たくさん。
ところが後で明細を見て驚いた。
診察料が3300円もするのだ。
保険でかなりカバーはされるが、あの行為に3300円というのには納得がいかない。
初めて診てもらったのならまだ分かるが、前回と同じ薬を出してもらうだけで3300円。
そう思うと「早くて助かるぐらいだ」と思った短いやり取りも、時候の挨拶程度に思われてくる。
私は何に3300円払ったのか?
忌々しいが、現状ではこれが最短で最多の薬を手に入れる方法なのだ。
はぁ、まぁもういいよ、目的は果たしたから。
ちびりちびり飲んで再会の日を遅らせるのが、せめてもの抵抗である。