人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

坊主のイタズラ

時の流れというものは平等でも一定でもなく、本人の感じ方次第である。

長い夜であった。

得てして、長く感じる時間は苦痛なものである。

寝付けない前提で11時半には布団に入っていたいのだが、毎夜、何かしらつまらん事で遅くずれ込んでいた。

昨日は、次のライブ(2週間後である)のためにコーラスパートをやっとコピーした。

まだ2曲(笑)

それでも12時を回ったために、私は急いで布団に入ったのだった。

まずは本を読む。睡眠導入剤だ。

とことん眠くなるまで読むので、早く布団に入りたかったのだ。

ベッドには本や雑誌が乱雑に乗っている。

その中から「ワンダージャパン」という、一風変わった雑誌を手に取った。

廃墟、水門、寺、給水塔、そういったものを載せている雑誌である。

薄気味悪い場所が多く載っているが、私はこういうのにワクワクしてしまうのだ。

オバケはもうこりごりだが。

雑誌の巻末には「団地」「工場」「ジャンクション」などの写真集の宣伝があった。

ジャンクションて(笑)

ワクワクしてしまったので眠気が遠のいた。文字を読むことにする。

新しく読み始めた本だが、これがまた面白い。

しかしどんなに面白かろうと、眠気はやってくるのである。

そのうち頭がボーッとしてきて、文章の意味が飲み込めなくなってくる。

恐ろしい薬である、本。

これに1時間ほど費やし、電気を消す。

つけていた時期もあったが、今は消すのがマイブームである。

「何となくその方が良く眠れる気がする」という同じ理由で、新しいブームがやってくるのだ。

私は「入眠」について、真剣に取り組んでいるのだ。

どんどん新しい考えを取り込んでいこうと思う。

涼しいので、エアコンも扇風機もつけなかった。

窓からは時々ひんやりとした風が入ってくる。

心地良い眠気。

いける。

今夜はいけるぞ。

逃がすな。

霊だとか神だとか目に見えないものは色々あるが、思うに私の部屋には、大変暇なイタズラ坊主が潜んでいるように思う。

これだけの条件が整っても、起こされるのである。

そう、それはまさに「起こされる」という表現がピッタリだ。

「寝れそうだ・・・」というその境い目で「寝れねーよ♪」というように突然現実に引き戻されるのである。

真面目な話をすればこれは、これまで寝付けなかった実績が作り出している緊張のようなものが原因なんじゃないかと思うが、自分でコントロールできないのである、もうどうしようもない。

これにもブームがあり、「寝慣れる」ような時期もあるのだ。

寝付ける日が続けば自然と緊張も解け、上手く眠れるようになってくる。

しかし突然、イタズラ坊主がやってくるのである。

眠くなってくると体温が1度下がるというが、その瞬間「ボッ」というように体温が1度戻る。

イライラも手伝って暑くなってくるが、こうなるともう台無しだ。

一からやり直しである。

頭をカラッポにする。

やがて、今気に入っている「字のない絵本」の好きなシーンが次々と頭の中に映し出されてくる。

そのうち、さっき読んでいた小説の影響で「どしてこなに値れねーでしょか」と、ムチャクチャな日本語が流れてくる。

「アルジャーノンに花束を」の主人公は知的障害者で、彼の日記はずっとこの調子だったのである。

このムチャクチャ感が、いかにも眠りの世界に続いて行きそうだったが、それに気付いた時点でアウトだ。

自分を外側から見てはいけない。

自分の状態を知ってはいけないのである。

「眠り」に計算が入ると、緊張が生まれてしまう。

リセットする時点を早める事にする。

私はもう一度「アルジャーノンに花束を」を手にとって広げた。

さっきより頭はスッキリして、まるで充分に睡眠をとった後のようである。

本も面白いので止め時がなく、時間はどんどん流れて行った。

これではいつまで経っても眠れないぞ。

眠れなければ、明日また二度寝をしてしまうだろう。

二度寝をすれば、もっと寝つきが悪くなる可能性が出てくるのだ。

くそー、明日こそ寝ないように頑張るつもりだったのだが。

どうせ寝れないなら、せめていつでも寝れる体制にしておこうと思い、本を閉じて電気を消した。

この方が眠りに近いな、と発見した時に、過去の経験からトイレに行っておくべきだと思い出したのだ。

立ってトイレに行く。

近づいた眠りが遠くなるが、横になったらそれもまた近づいてくる。

やり残した事はないか?

いいところで起きる事になると、また一からやり直しだぞ。

そういえば、何となく暑いか。

さっきと変わらないが、「暑いかもしれない」と思うと暑いかもしれない気がしてくるものだ。

念のために扇風機をかけておこう。

体を起こして私は非常にがっかりした。

外が明るくなっていたからである。

見ての通り、色々考えすぎなのである。

しかし、考えすぎなのを分かっていて考えすぎないようにするのは結構難しいのだ。

考えすぎないようにできる人間は、始めから考えすぎたりなどしないのだろう。

考えすぎる人間は、考えすぎるしかないのである。

仕事に行かなくて良いのだ、足りない睡眠なら簡単に取り返せるが、というか取り返してしまったために、今夜の睡眠がまた危ぶまれる事になった。

月の満ち欠けとか関係あるのだろうか。

長い夜であった。