人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

別におかしいわけでもないが

「二日酔いかぁ~!?」

違う、そうじゃない。

起きれなかった理由は、あなたのイビキがうるさくて眠れなかったからである。

それ程飲んだ訳でもなかったのだが、いい感じに軽く酔って帰ったのであった。

私はすぐにパソコンに向かい、ダンナは2階の寝室に着替えに上がった。

なかなか戻ってこないのでおかしいと気付いたのは、かなり経ってからだ。

娘ぶー子に「2階に上がる時に寝室を覗いて欲しい。おとーさんが戻ってこない。」と頼み、再びパソコンに向かう。

しかしぶー子は2階にも行かずに、「ちょっと聞いて」と私をリビングのドアまで呼びつけただけであった。

なぜならダンナの高イビキがそこまでハッキリ聞こえてきたからである。

酔って風呂に入ると死ぬ、という話を聞いたことがあるので、そのまま寝かす事にしたのだが、そのせいでダンナが起きて寝室を出るまで寝た気がしなかったのである。

しかも彼は、エルも一緒に連れて行ってしまったのである。何の罰だ。

そして今日の昼の彼からのメールは「今夜はどこにする?EE:AEB50」であった。

そりゃ晩御飯を作らないで酒を飲めるのだ、何日続いたって嬉しいが、一体どうしたというのか?

ジワジワと私の体を痛めつけて早死にさせるつもりか?

いや、同じ量だけダンナも飲んでいるのだ、これは緩やかな心中だ。

何かで借金まみれになっており、最後に手元に残ったお金で飲めるだけ飲もうという事か。

ぶー子よ、残される4匹の猫とゲームのエンディングを頼む。

かくして午前中は寝てるような起きてるような感じで終わってしまった。

昼ご飯を食べたらますます眠くなったが、今日は実家に行く日であった。

受け取りに行くものがあったからだが、前に書いたように、掃除もしてあげたかった。

しかしこの眠さ。

早速掃除は投げて貰う物だけ貰って帰る誘惑にかられたが、父はあさって帰ってくるのだ、もうチャンスがない。

一応掃除道具を持って出た。

必要なかったようだ。

どこもあまりにも汚れに年季が入っていてあまり綺麗にならなかった上、母は目が悪いのであまり意味がなかったのである。

何より母本人が「どうせ良く見えないんだから、汚れてようが気になどならない」と言うので、おせっかいは止めることにした。

しかし家に帰ってきたのは5時間後だ。

本当に私も母も、良く喋る。

やっと帰ろうと腰を上げたら、母もついでに買い物に出ると言う。

寒そうだから、と上に一枚羽織り、いざ出ようとしたのだが、見ると羽織ったシャツは薄手でそれではまだ寒そうであった。

「それじゃ寒いんじゃない?」

「そう?そうよね。」

逆も多いだろうが、うちの母は歳をとったら従順になったクチだ。

時間をかけて違う1枚を着てくると、「おかしい?」と聞いてきた。

赤いワンピースの上に、一回り丈の短い赤いワンピースをさらに着込んでいる。

おかしいかと聞かれれば確実におかしいが、80過ぎの老女が着るのだ、さほど違和感はない。

なので「別に悪くもないが、別に良くもない。」と曖昧に濁しておいた。

思いがけず時間を食ってしまったので、早く帰りたかったのだ。

「そう?じゃあこれは?」

今度はグレーの地味な帽子をかぶってきた。もはや「いい」も「悪い」もない、その判断基準にすら入れないほど難しい組み合わせであった。

なのでここも「別に悪くもないが、別に良くもない。」である。

「じゃあこっちならどう?」今度は茶色の大きなベレー帽だ。

それはおかしい、絶対におかしい、イヤに洒落た大きく膨らんだベレー帽である。

「おかしい」と言うと、「そうよね、と言うか、そもそもこの服がいけないのよね。」と言って、羽織った赤いワンピをグレーの薄手のコートに着替えてきた。

「どう?」と聞かれたが、見えるのはほとんどコートである。

洒落たコートだ、問題ない。

しかしまた母は引っ込んで「これは?」と聞く。さっきのグレーの帽子をかぶっている。

コートもグレー、帽子もグレーでおかしい、と言うと、次は茶色のベレーで、それも「別に悪くもないが、別に良くもない。」と言うと、黒い帽子に落ち着いた。

やっと決まったと思ったら「ここに今度はリュックサックが・・・。」と言って爆笑した。

リュックサック。

私の出した結論は、そもそも年寄りと言うのは基本おかしな格好をしている、だから余程のことがなければ悪くなりはしない、である。

実際そんなにおかしな格好ではなかった。

玄関で靴を履いていると「あっ、忘れてた!」と慌てて台所に戻る母。

ワインのコルクが開かないとの事だったが、私の力でもダメであった。

「オレリア」というワインである。私も良く買ったし、良く開かなかったので馴染みのあるものだ、500円。

すると母は買った店に電話して「開けて欲しい」と頼み、リュックにそれを入れて店に向かったのである。

店長が優しい人で良かったが、驚きの展開である。

もう実家の掃除はしない代わりに、ちゃんとしたワインオープナーを買ってあげようと思う。